エーリヒ・ラインスドルフは、ウィーン生まれの指揮者。ブルーノ・ヴァルターやアルトゥーロ・トスカニーニの助手として実地的に経験を積んだ、いわゆる叩き上げの指揮者である。ユダヤ人だったため、第二次世界大戦の勃発で亡命し、メトロポリタン歌劇場の指揮者としてキャリアを重ねたが、若かりし頃のラインスドルフの評判はそれほど良くなかった。アンサンブルを整えるのは得意という、いわゆるトレーナー・タイプの指揮者だったが、そのための練習が過酷だったこともあって、オーケストラ側からは敬して遠ざけられた。小澤征爾の前任としてボストン交響楽団の首席指揮者を務めていた頃も、そうした厳格で過酷な練習を課すがゆえに、よく事務局や団員と揉めたという。1969年にボストン交響楽団のポストを勇退してからは、1978年から2年ほどベルリン放送交響楽団の首席指揮者を務めたくらいしか常任のポストにはついていない。しかし、一回の演奏会を開くためのリハーサルで徹底的に楽員たちを絞り上げるラインスドルフの招聘は、オーケストラのアンサンブル力向上のための短期特訓になった。このため、フリーランスとして世界各地のオーケストラから引っ張りだこだったのは確かだ。
ラインスドルフの指揮するエーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトの《死の都》の録音は、このオペラの代表的録音である。ミュンヘン放送管弦楽団に客演しての録音ではあるが、ここでもオーケストラをみっちり搾り上げたのであろうが、メトロポリタン歌劇場時代の録音にような雑然とした演奏ではなく、細部まで神経の行き届いた万全の演奏になっている。