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ヴェルディの没後100年記念行事の白眉として、2001年1月25日とヴェルディの命日27日に演奏されたライヴ。
この曲はあまりにも偉大で素晴らしい。古今東西の「死者のためのミサ曲」のなかでも屈指の名作であり、ヴェルディの他の円熟期の大傑作オペラ「ドン・カルロ」「アイーダ」「オテロ」などと全く等しい重みをもっている。
ものものしく居丈高に、落雷のように猛烈に大きい音で演奏して、聴く者を圧倒し泣かせることは、ある意味簡単かもしれない。事実、黙示録的な恐怖を大音響で表現する「怒りの日」は、ロック系音楽や映画、コマーシャルなどに多用され、今日最も有名なクラシック音楽のひとつである。
アバドの演奏は、そういう音響的快楽の方向性とは、まったく違う。この曲の成立の原点通り、禁欲的に音楽に仕え、片時も祈りの感情を忘れてはいない。「怒りの日」の嵐が吹き荒れているときも、音楽のフォルムは決して捻じ曲げられてはおらず、深い哀悼の気分、生きるということが有限であり、終わりがあるのだという「死」への意識が支配している。アラーニャ、ゲオルギューらオペラ界きってのスーパースターたちも、ここでは当然ながらヒロイズムに堕せず、ひたすら音楽に奉仕している。
生前のヴェルディは、カトリック教会の欺瞞性への強い不信感を生涯持ち続けており、日曜日にも決して教会に行かなかったと言われる。神は存在するか否かという疑い、苛烈な悲観主義を根底に抱えながら、それでもなお神への愛を持ち続けるということは、ヴェルディの芸術の根本問題でもあった。その核心にこのレクイエム(と最晩年の「聖歌四篇」)は位置する。厳粛な「死」を聴く者に意識させ、ひとりひとりに考えさせようとするアバドの演奏は、そうしたこの曲の本質を改めて認識させてくれる。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
ヴェルディ没後100年を記念した、ソプラノ歌手、アンジェラ・ゲオルギュー、テノール歌手、ロベルト・アラーニャ他の歌唱、クラウディオ・アバド指揮によるヴェルディ「レクィエム」を収録した2001年ライヴ録音盤。