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ドイツの名指揮者カール・シューリヒト(1880-1967)が、最晩年の1960年代に名門ウィーン・フィルを指揮して録音したブルックナーの交響曲「第3」「第8」「第9」は、いまも愛され続ける名盤である。
フンパーディンクとレーガーに作曲を師事し、現代音楽に積極的な姿勢を持ち、生涯をヴィースバーデン市の音楽監督として過ごしていたシューリヒトは、晩年たびたび客演に訪れたウィーン・フィルに大変尊敬されていたという。
シューリヒトの指揮は、一見そっけないと感じられるほどに飾らない。全体にテンポは速めで、たとえば第1楽章第1主題、あるいは第2楽章のスケルツォ主題など、一陣の烈風のように、一筆で勢いよく描き尽くす。しかし、対照的な性格描写の主題ではじっくりとテンポを落として沈みこむなど、きわめて激しい起伏を持っている。それは曲想の内容と見事に対応しているので、劇的な変化も実に自然と感じられる。ブルックナーの「白鳥の歌」として知られる第3楽章アダージョは、痛切きわまりない演奏である。特に悲哀の色を濃くしていく後半では、思いのたけをぶつけるような熱い感情がほとばしり、没入して聴いていると、思わず泣けてくるほどだ。1960年代のウィーン・フィルの音色は落ち着いた室内楽的なトーンがたまらなく魅力的。静けさの表現には、わびさびの境地さえ連想させる枯れた味わいが感じられる。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
`実際の演奏の音を忠実に再現する`ことに主眼を置いたEMIのリマスタリング技術、ART(アビー・ロード・テクノロジー)を施した、ARTシリーズ第1期第1回全25タイトルを発売。ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団演奏の1961年録音盤。 (C)RS