乱歩作品ではお約束なトリックを使うなど、サスペンスとして引き締まった出来ですが、
サイドストーリーである恋物語として見ても、非常に秀逸です。
巷に溢れる恋愛小説なぞ問題にならないぐらい。
明智先生と黒蜥蜴、2人の間には最初から大人の雰囲気が漂っています。
何か起きそうな、危うい感じとでもいいますか。まずそれにぞくぞくとさせられます。
そこから物語にどっぷりと浸かれて、エンドロールの後もなお余韻が残るのは、
天知、小川両名の演技力と存在感がなせる技でしょう。
明智先生はいつもだと「それは単なるやらしい中年おやじじゃないか!」と
突っ込みたくなる部分が多々ありますが、今回それは抑え気味。徹底してクールでドライ。
黒蜥蜴を怒らせたセリフは、女性に対するそれとは思えない冷酷さです。
(彼女への本音を見せるのも、完全に決着がついた後の1度だけですし)
対する黒蜥蜴、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性なはずなのに、
明智先生のことを考えているときはまるで少女のよう。
その対比も話のキモとして、見ごたえがあります。
普通の男と女になってしまえば楽なのだけど、プライドにかけてそれはしない。
一方でごまかしきれない想いすら、相手に対峙する時はぎりぎりで抑え込まないとならない。
その揺れ動くさまには、不覚にも涙してしまいました。
そのあたりも含めて、大人向けの娯楽なのかもしれません。
後半、黒蜥蜴が「勝負に勝ったけど心の勝負は負けた」とつぶやく場面がありますが、
本当にその勝負で負けたのは先生ではないか、という気がします。
長文になってしまいましたが、個人的には涙を流すことによるデトックス効果が強烈すぎて、
星5個では足りないほどです。
レンタルで済ませるのはもったいない、と断言してもいい作品。