時に、忘れた頃にTVから流れる「大都会」を耳にすると、田中昌之の高音域を再現できるボーカリストは、もはや日本には出てこないんじゃないのか・・・そんな感傷的な気分さえ起こさせます。本作は、その田中、そして吉崎のツインボーカルの魅力を余すところなく堪能できる、まさに当時クリキンが最も勢いのあった頃、記念すべきデビューアルバム「クリスタルキング」(1980年発表)になります。
「A BEGINNING」 ~「大都会」の流れはベストアルバムでは決して味わえない、オリジナルアルバム由来の選曲で、静と動のコントラストが新時代を予感させます。そして圧巻は、最終曲「AN END」で、田中がシャウトしながらフェードアウトしていくという曲進行なのですが、兎に角、高音が凄まじいのです。くだんについて思いだすのは、以前、徹子の部屋でクリキンと対談している昔の動画を見た時のことですが、司会の黒柳徹子が「最後の曲、アレあなたが歌ってらっしゃるの?」と称賛と驚きの目で尋ねると、田中「ああ、本当に自分で歌ってますよ。よく機械音、つまりシンセサイザーの音じゃないの?と間違えられます」と笑いながら返していた事です。和製ロバート・プラントの面目躍如であり、それをしっかり履行した名曲だと言えるでしょう。今思うと、田中のハイトーン声帯は神からの贈り物だったのでは・・・、そう感じる事さえあります。神々しいまでに美しく透き通った声でした。
そんな田中も、現在では、キャッチボールのミスからボールを喉に当ててしまい、高音域が思う様に出ないと聞きました。またバンドも、田中、吉崎の利権争いから事実上の解散。ゆえに、ツインボーカルの再現どころか、オリジナルメンバーでの再結成もほぼ不可能というのが現状のようです。そんな意味でも、本品は当時の貴重な音源のオリジナルアルバムとしての価値を帯びて存在し、また、ベスト盤や北斗の拳から入った方なら、改めて手に取って聴いて頂きたい1枚だと思うわけです。