大変好きなゲームですので細かく長いレビューになります。
グラフィックとサウンドに稀有な個性を持った3Dシューティングゲームです。
システムはセガの名作「パンツァードラグーン」に近く、視点変更が可能な強制3Dスクロールステージで
進んでいくロックオンシューティングとなっています。
ただ世界観は180度反対といってよく、ハードも一世代進化しているためビジュアル面の印象は全く異なり
ます。
ある程度の年齢の方であれば、SF映画「2001年宇宙の旅」のスターゲートシーンに衝撃を受けた方は多い
でしょう。
あれは当然CGではなく大変手間のかかる手作業によるものであり、画面奥から手前に光り輝く上下の平面が
迫り来るといったその立体的表現が与えるインパクトは映像的にも革命的なものでした。
いわばこの表現を換骨奪胎して左右の面に置き換えたものが「スター・ウォーズ」のデススター突入シーン
だったといえるでしょう。
映画ではそれがミニチュア特撮で作られていたわけですが、実はこのシーンを再現したアーケードゲームが
存在しました。
当時まだ家庭用ゲームハードで滑らかな3D表現は全く不可能だったのですが、そのゲームの画面はワイヤー
フレームで構成されており、いってしまえばただの「線」が画面に表示されているだけではあるもののその
3D表現には映画のような臨場感が備わっていました。
映画でもデススター攻略の作戦会議でワイヤーフレームが用いられており、いわばこれは3Dコンピューター
グラフィックの出発点であるとともに当時の最新技術でもあったのでしょう。
一画面ずつの切り替えではあるもののコンシューマーゲームの世界ではRPGのパイオニアのひとつである
「ウィザードリィ」においてワイヤーフレームの3Dダンジョンが表現されていました。
線でのみで構成されたワイヤーフレームを経て面を持ったポリゴンが生まれ、さらにそこへ表皮を加えた
テクスチャーマッピングが登場することで3D表現は非常に高度なものになり、もはや現実のオブジェクト
と区別がつきにくくなりつつある、といった感があります。
で、この「Rez」、プラットフォームであるPS2はテクスチャーマッピングが余裕で行えるスペックを持ち
合わせているのですが、「意図的に」ワイヤーフレームのテイストが重用されています。
演出上一部にテクスチャーが貼られているものの基本的にステージはワイヤーフレーム風に表現され、撃ち
落とす対象はフラットシェーディングが施されたポリゴンで構成されています。
芸が細かいのはこの対象が撃破されるとワイヤーフレームの破片となって飛び散る事で、プレイヤーが得る
この感触は上で書いたワイヤーフレームのスターウォーズが持っていたものとほぼ同じです。
ハードスペック的には「抑えられた」といってもいいこれらの手法はこの作品の世界観を表現するために
ベストな選択であるのは間違いなく、また大きな特長になっているといえるでしょう。
こういった点は先に述べた3D表現の変遷を知る方には非常に感慨深いものであると同時に、視覚的快感を
得る大きなセールスポイントともなる筈です。
並んで言及すべき個性がサウンド面です。
これも世界観に沿った「テクノポップ」が全編を満たしており、上で書いた世代にはこれも重複するムーブ
メントといえるのではないでしょうか。
大きな特長となっているのが、これが単にBGMとして使用されているだけではない、ということです。
説明にちょっと音楽用語を含むのをご容赦ください。
ゲーム中のSEが例えばショットボタンを押すとハンドクラップ、ロックオンでハイハット、フルロックオン
すればスネアバスドラと振り分けられており、この辺りは音ゲーともいわれる所以でもあるのですが、本来
シューティングゲームである以上勿論そのタイミングは任意であり普通に敵を攻撃して構いません。
しかしそれらの音が自然に16なり32なりのオタマジャクシに乗ることになり、これが何をもたらすのかと
いうとプレイヤーはシューティングゲームをプレイするとともにテクノミュージックのアドリブプレイを
行なうことになるわけです。
得られるこの快感はこのゲームの大きな魅力であり特長であるといえます。
ステージ序盤はグラフィック、サウンド共に貧弱なものなのですが、進行につれその密度は上がっていき
BGMのテンポもノリノリになっていきます。
群がるザコと中ボスを迎えながら視覚的刺激は増し体は自然にリズムを刻み始めるなんてシューティング
ゲームはそうそうないでしょう。
シューティングゲームである以上ゲームオーバーは存在しますが、この映像と音を堪能することに比重を
置いたお気楽モードが存在するのはありがたいところ。
最近はハードを変えたリメイクもあるようですが、数世代前のこのゲームの価値が色褪せることはないと
思います。