どのくらい前になるかは知らないが、初めてフルトヴェングラーの指揮する姿に接したときは、本当にびっくりした。指揮ぶりが独特である、という人は他にもいるけれど、これほど変わった指揮は見たことがなかった。類例がない。よくあれでオケがついていけるものだと、妙な関心もしたりした。
このディスクは、以前出ていたLDと同じものだが、オリジナル・ネガフィルムからのテレシネということで画質音質、特に画の方のクオリティがかなり向上している。その点ありがたいが、いくつか問題点もある。
まず、ケース裏面の曲目紹介が相変わらず間違っている。LDの頃からこれだけ時間が過ぎているのだから、この程度はちゃんと訂正しておいてほしい。それからチャプターの打ち方だが、この点はAの方がよかった。語りの部分にまったくチャプターがついていないのは不便である。例えば、フルトヴェングラーがソロを弾くブランデンブルグ五番についてのヨアヒム・カイザーの素晴らしい解説、これがチャプターで出てこない。解説を聞き、それから演奏に触れると私などはなおさら魅了されるのだが。
以前と変わらぬ妙な字幕も考え物だが(サイズだけは変わっている)、しかし、それでもなおかつ、このディスクはフルトヴェングラー・ファンにとって貴重な一枚だ。見ていない人はもちろん、すでにLDを持っている人にも勧められる。
蛇足だが、私の好きな演奏を挙げておくと、先に言ったブランデンブルグの五番とブラームスの交響曲四番、最終楽章のリハーサル。両者とももちろん抜粋だが、前者はEIのCDより音がいいように聴こえるし、後者の気迫というのはリハーサルとは思えない、むしろ本番でも滅多に聴けない迫真性で、これに惹き込まれない人がいるとは考えにくい、凄絶な演奏である。もちろん、ゲルハルト・タシュナーの顔が見える戦時中の第九やマイスタージンガーの前奏曲も貴重だ。