英国のゴシックメタル・バンドAnathemaが、1996年に出した2ndアルバムです。オリジナルはPeacevileから、日本盤は翌1996年にポニーキャニオンからリリースされました。
近年はオシャレで爽やかな音楽をやっている彼らですが、この時点では重く暗鬱なゴシックメタルをやっています。ヴォーカルはデス声というほどじゃありませんが振り絞るようなシャウトスタイルで攻撃性も高い。元々ゴシックメタルはデスメタルから派生した音楽。90年代初頭、デスメタルの持つ重さと遅さに、耽美で退廃的、そしてドラマティックな要素を加えた新しいスタイルの音楽が登場。その初期ゴシックメタルの代表格として有名なのが、Paradise Lost, My Dying Bride, そしてこのAnathemaなのです。
一緒に歌えるパートや判りやすい泣きのメロディがあるでもなし、リフもひたすら重くドロドロしてます。しかしストリングスやアコースティックギターの静寂パート、時折見せるエモーショナルなハーモニー、70年代プルグレ的な要素など一見ドロドロした中に意外といろいろ溶け込んでいます。
キーボードとクリーンギターで静寂と共に幕を開ける#1 "Restless Oblivion"。50秒過ぎからバンドの音が入ってきて、スローかつドゥーミーなリフがうねります。ヴォーカルパートに入るとミドルテンポになってちょっとだけノリが良くなりますね。基本的にはドゥームメタルなんですが、単音ギターのピロピロ音や中盤の静寂パートなどでゴシック感を演出しています。終盤はドゥーミーなリフに不穏なクリーンギターのフレーズを絡ませてかなり不吉なサウンドになってます。
#6 "Cerulean Twilight" は浮遊感のあるイントロを1分少々引っ張ったあとヴォーカルパートに突入。演奏はイントロの浮遊感をそのまま引き継いているのに対しヴォーカルはデス声なんですがこれが意外と合っています。その後は聖歌のような荘厳なパートに移行。3分50秒過ぎから展開が変わり、80年代ニューウェイヴがちょっとダークになったような淡々としたパートになります。この後半のパートは結構クセになりますね。
#8 "A Dying Wish" はイントロの時点で静かな中にドラマティックな構成が光ります。1分50秒あたりでバンドの音が入ってきて堂々としたミドルテンポで進行。アルペジオをバックに振り絞るシャウトはメロデス的と言えなくもないですが、メロデスともまた違う独自の耽美性が強い。この曲はテーマになってるメロディも判り易く、後半に進むにしたがってヒートアップしていく様子も聴きどころ。
1995年と言えば、Paradise Lostが「Draconian Times」を、My Dying Brideが「The Angel and the Dark River」をリリースした年でもあります。つまりイギリスのゴシックメタルを代表する3バンドが揃ってバンドの代表作となる名盤をリリースした奇跡的な年。この年を以って、90年代初頭にデスメタルから分化した初期ゴシックメタルは1つの完成形を成したのです。