一聴しての印象は、ウイスキーボンボンの詰め合わせのごときアルバム。
しかし同時に、ビートルズ色を肌身に感じる。
音楽的に「ビートルズっぽい」という意味ではない(まあ多少はあるが)。ビートルズ(特に後期)をビートルズたらしめていた「実験的なスタジオ録音」という意味である。主にマッカートニーが「大衆性」の維持に努めてはいたものの、マーティンを始め、エメリック、スコットといった優秀なエンジニアにより、各曲様々に、実に斬新な音触が展開されていたことはよく知られたところ。
このアルバム制作までには、相当な人気が確立されていたようであるから、その勢いを借り、従来の路線を外れ「遊んでみた」のではないか。もともとは歴代の洋楽ロックに傾倒していたというバンドメンバー(特に岡部のビートルズ傾倒は周知の事実)が、トリビュート的姿勢も含め、一度はやってみたいと思っていた録音技術やサウンド効果の数々を、思うがままに試してみたのではないか、というのが拙感である。
『ワイルド・ボーイ』。冒頭に流れる声に聞き覚えがあるように思ったら、『レット・イット・ビー』の『ツー・オブ・アス』の冒頭に酷似。八野の声音も『ウォーラス』のレノンに近いダブルトラッキングの感がある。
『Ben & Lucy』のミドルエイドのトランペットは、『ペニーレイン』のそれを想起させる(編曲担当の長谷川氏はマーティン的存在であったのか)。
『グレープフルーツ・スプーン・マン』の歌詞は、作詞の八野の『ノーウェア・マン』へのレスではなかろうか(作曲の岡部によるギターリフは、見事というより他ない)。
究極は『Local Daily News』。「地元新聞のニュース」をテーマにした歌詞。曲の終わりのなだれ込み的不協和音。八野による『ア・デイ・イン・ザ・ライフ』へのトリビュートであるのは間違いない。
とはいえ、ヴォーカルを徹底的に沈ませた『ミドルクラス』のサウンドなどは、マイブラの『ラヴレス』を彷彿とさせるわけで、一概に「ビートルズ」で括るのは早急に過ぎるかもしれないが。
このように、これまでのネオアコ/ギターポップ路線を大きく外れたハードロックサウンドを基調とし、プロデュースに福富幸宏を起用した唯一のアルバムでもあり、バンドの作品としては他に類を見ない「特異」なアルバムであると言える。
しかし、『給水塔から』の前半や『臨海ニュータウン』、そして弦楽に乗せて八野が「詠う」美曲『平日ダイヤ』といった、メローに沁み来る楽曲を聴けば、バンド生来の叙情とメロディーが失われたわけではないことがわかる。
また、バンドの強みでありながらつい見過ごされがちな「王道ポップメイキング」の技は、シングルカットの二曲『Jet Jet Coaster』と『太陽の雫』に余すところなく披露されている。
b-flower というバンドの、プリズムのごとき多面性を包含した計り知れない力量を、これほどまでに総体的に露呈したアルバムは、おそらくこれ以外にないであろう。