僕がヴァインズを知ったのは某音楽誌に掲載されていた初来日公演(2004年)の記事を読んで興味をもち、2ndアルバムの先行シングル“Ride”を聴いてからだった。
自分は17の頃にニルヴァーナの“Nevermind”を聴いたけれど、当時はあのアルバムの良さが分からなかったクチで、90年代のグランジやアメリカンオルタナティブロックよりもイギリスのシューゲイザーやブリットポップを好んで聴いてきたので、ニルヴァーナからモロに影響を受けたこのヴァインズも最初は何となしに聴いてた程度だった。それが、2ndアルバムである“Winning Days”をドライブ中にリピートして流しているうちに60年代風の“ガレージ+サイケデリック”な奇妙だけどキャッチーなサウンドに少しずつハマっていき、遡る様にしてこの1st“Highly Evolved”を購入する事になった。
CDを再生した瞬間からボーカルのクレイグ・ニコルズの歌声が響きわたり、オーヴァーダビングされた彼の“声”が絶叫したり、ダルそうに歌ったり、囁いたりといろんな色を出して、多くの楽曲が1~3分程度の短い時間で感情を爆発させていた。
楽曲そのものは全体的にシンプルで、登場時に謳い文句として言われていた通り“Beatles meets Nirvana”という感じで、彼の声質もジョン・レノンとカート・コバーンが合体した様な、荒いはずなのにどこか耳馴染みの良い声に聴こえた。
このアルバムのプロデューサーであるロブ・シュナッフがオーヴァーダビングを得意としていた人とのことで、その特長を生かして楽曲の魅力を100%以上に引き出し、更に元々はデモ音源の時にはもっとサイケデリックでマニアックな音作りだった個々の楽曲を“荒々しいストレートなガレージサウンド”に変えたのも良い意味で一般のロックファンの耳に入る様にしたんだと思っている。
なので、YouTubeなどの映像で観られる彼らのライブではバンドメンバー3~4人が演奏して、コーラスもこの頃はベーシストのパトリック・マシューズしか担当していないため、どうしてもオーヴァーダビングしているこのスタジオ盤よりも“音の分厚さ”で負けている感が咎(とが)めない。
このスタジオ盤はクレイグ・ニコルズの歌声を思う存分に堪能できるアルバムに仕上がっていて、クレイグ本人もインタビューで「僕は最高の楽器はボーカルだと思う」と発言していた通りに彼の今にも壊れそうな震える声が最大の魅力だ。
楽曲もニルヴァーナ直系の荒々しいものが多いけれど、M5“Homesick”とM10“Mary Jane”はメロディアスな名曲で、良い意味で哀愁漂うビートルズサウンドをやっている。
21世紀初頭に世界中で起こった“ロックンロール・リヴァイヴァル・ブーム”で一般的に認知されているのはストロークスだけど、ヴァインズも間違いなくシーンを引っ張った存在で、このアルバムはその時代を代表する1枚なので、興味をもった方は是非聴いてみてほしいです。