「坂道」を何度も何度も聴いていました。その淡々とした音の表情は、空気の重さや湿度まで伝えてきます。「ばらの花」と並び、くるりの独特で卓越した描写力その神髄のように思いました。特に岸田氏という歌い手の味わい深さを知れたように思います。無機質で俯瞰のような歌い方は日常のうすのろをうたうにはもってこいでしょう。しかし無機質なようですが、じっくり聞いていると彼が丹念に丹念に風景の輪郭をなぞるように歌っていることに気づきます。だから人物の目の表情や心情など微細な動きが、感情を明朗に歌うよりよっぽどリアリティをもって映し出されるようなのです。更に色彩もその声の向こうにやんわりと滲んでくるので、まるでこの曲が描く風景は8ミリフィルムのよう。鮮明でなくぼんやりとすれども、味わい深く、こころに伝わるいい色を映します。
他方作品は、曲が変わる度に次々とむきだしのくるりが様々なロックの表情で迫ってきます。「モノノケ姫」など、ただぶっとんでいるだけでなく、くるり独特の趣も感じざるを得ません。くるりを知る上でとてもいい作品ではないでしょうか。
ファンデリアとはジャケ写の通り、駅構内や電車内に設置された三菱電機が特許を持つ換気装置のこと。三菱はJR東西の電気系統や可変電圧可変周波数制御装置、モーター、制動装置、空調装置などを手がけるそうです。また関西沿線はその生産拠点が多く、JR西321系電車(ステンレス製の通勤電車)などJR京都・神戸・宝塚・福知山や関西私鉄を走る電車には三菱電機のモーター、制御機器等が使われていることから、作品タイトルには鉄道マニアの岸田氏の意図が何か反映されているのでしょう。因みにモーターの走行音を愛する岸田氏。それで始まる「坂道」だけに最後に聞こえる機械音も鉄道関係の音なのでしょうか。
「続きのない夢の中」&オフショットが数枚。窓に逆光の岸田氏や阪急京都線の風景がなんともいい味。