オーストラリアの人間国宝にも選ばれたロジャー・ウッドワード。バッハやベートーヴェンから武満やクセナキスまで幅広いレパートリを持つ彼に送られた2曲目が、本盤の目玉だろう。
全体的に響きと間が命のピアノ曲で、いかにも西欧人の考えそうな東洋の思想と美を感じさせるのだが、東欧の保守本流で学んだロジャーらしい、澄み切った音色が素晴らしくマッチしている。(彼はラフマニノフフの孫弟子でもあるのだ。)1973年の彼による武満作品の演奏に対して、タイムズ紙が「西洋と東洋を繋いだ」という批評を載せたというエピソードも「らしい」。
さて、本盤のライナーノートには作曲家自身が文章を寄せている。3曲目「ピアノ・ディスタンス」(1961年)のタイトルに特別な意味はない、と率直に書かれているのがこの作曲家らしくて面白かった。