ラッセルというとこれまでのそのレパートリーからスペインものを想像するのは難しいが、このアルバムでは「彼がスペインものを弾いて似合うのか」という疑問を一気に払拭してなおあまりある素晴らしい演奏を聴かせてくれる。その音色の美しさと圧倒的に幅広い表現力をいかして、「情熱的」という一面だけが見られやすいスペインの名曲達を、実に繊細に情緒豊かに弾いてみせてくれている。有名な曲がほとんどのこのアルバムで、その有名な曲のこれまで見えなかった隠れた一面を見せてくれる。
特にラッセル自身が編曲した『アンダルーサ』や『詩的ワルツ集』は素晴らしい。『アンダルーサ』をあそこまで美しく情緒深く演奏しているのは初めて聴いたし、『詩的ワルツ集』の響きはどこまでも透明で儚い。ラッセルの描写能力の幅広さを改めて感じた。
このアルバムのタイトルは、元々は『スパニッシュ・フェイヴァリッツ』 ではなく『Reflections of Spain -Spanish Favorites for Guitar-』。こちらの方がうまくこのアルバムの本質を表わしているように思う。スペインの名曲の寄せ集めというよりは、スペインの情景を思い浮かばせる曲達というコンセプトの下の一枚。有名なスペインの曲達をこれまでとはまた違った視点から聴かせてくれる。