チェットとジェリーのライブをDVDで観れる。
そしてたぶん、ジェリー・リードの演奏中の映像というのは、
今のところこの作品だけではないかと思われる。
それだけで★5つなのだが、ちょっとだけ説明を。
グラミー賞を14回も受賞した”レジェンド”チェット・アトキンスは
ドク・ワトソン、マール・トラヴィスと並んで、カントリー系の
(という言い方しかないのだが)、ギターの地平を拓いた
スーパーギタリストの一人。そのミュートしたオルタネイトベースを
土台にした流麗でお洒落なスタイルは、多くのプレイヤーに
影響を与えつつ、誰もチェットそのものになろうとはしなかった。
なることをあきらめた。ほどの、まあ、すごい人だったわけである。
カントリーミュージックとしては、もっともプログレッシブな
スタイルをもつナッシュビルサウンドの創始者といってもいいと思う。
ジェリー・リードは、日本風にいえば弟子筋にあたる。
ハープのチャーリー・マッコイもそうだろう。
70年代、彼らを聴き始めた頃は、ナッシュビルの総帥・チェットと、
若きエース、ジェリーという感じだったけれど、
1992年のこのライブを観ていると、ジェリーもかつての名盤
「カントリー・ピッキン」でみせたような切れ味の鋭さとか、
正確無比の超絶テクといったものよりも、ぐっとリラックスして、
気心の知れた叔父さんと甥っ子、のような感じになってきた。
ライブは、ゆるゆるの雰囲気で始まる。
4曲目にジェリーが、今、釣りから帰ってきたという感じで登場し、
こともあろうにディランの「くよくよするなよ」を始めた時、
もう今宵はずっとゆるゆるなのだと覚悟した(笑)。
茶目っ気と洒落っ気。そして超絶テク。
ものすごい二人が、ものすごいことを演っているのに、
「どうだ。すごいだろう」というシーンが、ただの一瞬もない。
これは、やはり、ものすごいことだろうと思う。
使用楽器は、チェットがエレガットとセミアコと、
1曲だけ、フレットレス(と思われる)エレガット。
ジェリーは、最後までエレガットだ。
スチール弦にはない独特の温かみと粘りのあるサウンド。
バック隊は二人で、ギターと時々、ハープが絡む。
ベースもピアノもドラムもない。ギター4本使っているからといって
すさまじいアンサンブルが展開されるわけでもない。
(ように見えるが、やはりすさまじいことをやっている)。
2001年6月にチェット・アトキンスがこの世を去った今となっては、
ジェリーのインスト盤の再発を切望する。
この人のインスト盤が一枚もないというのは、世界中のギタリスト、
ギターファンにとってかなしいことだと思う。