日本のポストロック/エレクトロニカユニット、World's End Girlfriendが2002年に出した3rdアルバムです。タイトルは「夢の終わりは叶う」といった意味。日本の某国民的音楽ユニットに対するじくじくした悪意が感じられていいですね。
その音楽性は、美しく、儚く、そして過激。淡く暖かな世界を浮遊していたかと思えば、いきなり叩き落されるかのようなノイズや打撃音が響き、荒み果てた虚数空間に連れていかれたかと思えば物量で攻めてくる場面もある…。正気の沙汰とは思えない逸脱音楽です。
Aphex TwinやBoards of Canada, それとGodspeed You! Black Emperorにも通じる世界観。そしてその世界観や音楽性は明らかに、後のVampilliaや夢中夢といったバンドにも受け継がれているように感じます。
#1 "Singing Under the Rainbow" は多幸感あふれるアンビエントで幕開け。やがてエレピが切ないリフレインを奏で、Aphex Twinの "To Cure a Weakling Child" を思わせる変調ボイスが左右から入ってきます。ヴァイオリンが優雅なメロディを奏で、ビートにも徐々にノイズが混ざり初めるんですが、不思議と不穏な感じはありません。終盤になるとノイズ音楽なのかインダストリアルなのかといったレベルで緊張感が高まり、それがフッと途切れる形でやけにメルヘンなエンディングを迎えます。
#2 "Caroling Hellwalker" はファミコンの8ビット音源みたいなピコピコ音で幕を開け、やがてストリングスがイン。中盤までは優雅で切ない雰囲気でさりげない四つ打ちのビートもオシャレなんですが、5分30秒あたりからいきなりカオティックになります。何かこう普通にかわいいキャラクターが、突然インドのカーリーみたいな異形の姿に変化してあばばばばばってなってる印象です。そのカオティックなパートが終わって6分40秒あたりからはストリングスが冷たく虚ろなメロディを奏で、それがフッと途切れると列車の音をカタタタンッとピアノで表現しているようなパートへ。どこかやベえ世界に連れて行かれそうな余韻を残して終わります。
#3 "All Imperfect Love Song" は25分に及ぶ大曲。七尾旅人氏をゲストに迎えてポエトリーリーディングのようなことをやってます。ヴァイオリンが奏でる終末的なメロディに、時折バグったようにブレる音声。その音声もいつしか途切れ、サックスとピアノが世界の果てでひっそり営業している酒場のような情景を奏でます。
11分14秒あたりでちょっと展開が変わり、ピアノとヴァイオリン、そして冷たく金属質なエレピによる静かなパートへ。夢の中で幾人もが判別不能な言葉をしゃべり続けるようなパートを経て重く破壊的なビートがノイズを撒き散らしながら、それでも一応四つ打ちの体を取りながら進行していきます。そして16分20秒あたりで一旦すべてをリセットするかのように終わらせて、ごく一般的な四つ打ちと共に冷たくもオシャレな雰囲気に。しかしそれも束の間で徐々に不穏な雰囲気となり、悲鳴を上げるサックス。張り詰めた電子ノイズ、加速するビートとどす黒い悪意を撒き散らした後、何もなかったかのように穏やかさを取り戻し、随分久しぶりに思える七尾旅人氏の音声が入ってきます。そして静かな中にも重さのあるピアノでゆったりとエンディングを迎えます。
#4 "Wonderland Falling Tomorrow" は鐘の音、波の音、そして不穏な調べのパイプオルガン。2分20秒あたりから冷たく荒涼としたピアノが入ってきます。地の果ての断崖にただ一軒佇む教会のような雰囲気です。
人気のない海岸…できれば岬や半島の先端まで行って、断崖に打ち付ける波や海に浮かぶ島々を眺めながら聴きたい、にぎやかでコミカルな描写もありますが、それ以上に寂寥感の強いアルバムです。