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音楽を聴くのに、「ビギナー」も何もありません。音楽を聴くには、自分の耳と感性だけが頼りです。まず、自分の耳と感性を信じて、じっくりと何度も聴き込むことです。聴く前に、音楽（演奏）への先入観をもってはいけません。言葉にだまされてはいけません。その言葉を鑑賞の世界へ持ち込んではいけません。したがって、この文章も、鑑賞の当てにはなりませんから、読むだけにして、ジャズを鑑賞する段になったら、まっさらな心で聴きましょう。
という前提で、「ザ・トリオ」について、わたしの感想です。シカゴのジャズ・クラブ「ロンドン・ハウス」での、ｂ、ds、pが三者一体となった演奏。このユニットの息の合った、味わい深いパフォーマンスを是非、味わってほしいものです。次第に演奏が乗ってくると、このトリオの独壇場で、力動感・躍動感溢れる演奏に、否応なしに会場の雰囲気が高揚してくる様子が感じられます。この演奏の良さが分かってきたら、お酒でも飲みながらリラックスして聴くと、このユニットの最高にパフォーマンス溢れるライヴを会場のお客と共に楽しむことができます。
この「ザ・トリオ」のCDを聴いた後では、「プリーズ・リクエスト」ではもの足らなさを感じてしまうと思います。（「プリーズ・リクエスト」は音質が良く、オーディオ・ファンにはお馴染みの録音ではありますが、「ザ・トリオ」の後に聴くべきアルバムではないでしょう。）
「ザ・トリオ」を楽しんだ後にお薦めなのは、同じロンドン・ハウスのライヴ盤「ロンドンハウスのオスカー・ピーターソン」、「サムシング・ウォーム」、「プット・オン・ア･ハッピー・フェイス」。そして、この「ザ・トリオ」に５曲追加の「Trio Live from Chicago」というアルバムも出ていました。（追加された５曲は、"The Lonesome One"、"The Gravy Waltz"、"Woody 'N' You"、"Soon"、"aahoud"。）これらのアルバムを聴くのがお薦めです。
わたしは、ピアノが大好きなので他の多くのジャズ・ピアニストの演奏も、ライブも録音も含めて６０年聴き続けてきました。所有するレコードやCDも一千枚を越えましたが、それらのCDの演奏に、言葉もない感動を覚えたり、演奏の躍動感に心踊る思いをしたり･････。それぞれに個性的な素晴らしいピアニストを、たくさん聴いてきました。ピーターソンも、その中の一人です。ピーターソンは、ピーターソンです。他のピアニストに求めるようなものを求めてはいけません。（このことは、他のピアニストにも言えることです。他のピアニストにピーターソンの味わいを求めてはいけません。）ピーターソンの好きな人は、そのようにピーターソンを聴いています。素直にピーターソンの味わいを味わっています。味わいは、それぞれみんな違います。これは違いであって、深い・浅い、高級・低級とかの差ではありません。「差」ではなく、「違い」です。個性です。一つの尺度だけで音楽を評価して、自らの世界を狭くしてしまうことはありません。世界は、もっと豊かで広いのですから。
多くのピーターソン・ファンは、その演奏の力強さやドライブ感を素直に楽しんで聴いています。このことは如何ともしがたい事実です。特にこの「The Trio」はいいです。ジャズ評論家の中には、ピーターソンを低く見る者もいるようですが、評論家など当てにしてはいけません。評論家の言葉を鵜呑みにするジャズファンもいます。当てになるのは、自分の耳と感性だけです。音楽を聴く当事者は自分以外のだれでもないのですから。
もちろん、ピーターソンの他にも素晴らしいピアニストがたくさんいます。わたしは、その折々にいろいろなピアニストを聴いています。音楽との「出合い」を大切にしてください。それぞれの演奏家の個性を楽しんでください。真正面からまっさらな心で、演奏に向き合いましょう。（その時は、以上のわたしの言葉などまったく忘れて、音楽そのものに向き合って聴いてください。）ジャズを６０年聴いてきた者の老婆心です。
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