本作のプロデューサーはイタリアのアルベルト・グリマルディ。伊と仏の合作資本による作品で、今回の修復原版はイタリア語です。2003年にSPOから英語版DVDが発売されており収録本編は116分。ちなみに公開時のパンフレットでは上映時間は1時間51分( 111分)。個人的にはこれまで上記の英語版しか見たことがありません。はたして129分のリストア全長版で作品はどう変わったのでしょうか。
物語は19世紀。英国の特命を受け、ポルトガル領のケマダ島へ上陸したウィリアム ウォーカーが、現地の黒人ホセ・ドロレスを革命家として育てあげ、ポルトガルを駆逐し現地人による政権を樹立し、島を去る前半と、10年後に、多国籍企業の依頼を受け、利権のため今度は現地反乱勢力を殲滅すべく、ケマダに戻ったウォーカーが再度ドロレスと対峙する後半とに分けることができます。
今回の全長版では、主に作品の前半部分が丁寧に修復されています。
たとえばウォーカーが、対面かなわず処刑されてしまう反乱の首謀者サンティアゴとその妻をめぐる描写もそのひとつ。
発端は鉄輪で首締めのうえ斬首されてしまう衝撃的な処刑シーンですが、英語版では、反逆者への見せしめに晒し首にするためでしたが、今回の全長版では死者の再生を信じる黒人たちの土着信仰を貶める狙いもあることが明らかとなります。(村に戻っての葬儀で、妻は斬首された遺骸に黒い仮面を置き嘆き悲しみます。)
夫の遺骸を引取りに来た妻は、5人の幼子と荷車を引いてサトウキビ畑をぬけ坂道をやっとの思いで上っていきます。見かねたウォーカーが、馬から降り手をかします。(ウォーカーの意外な一面を感じさせる場面です。余談ですが私は黒土三男が映像化した『蝉しぐれ』の主人公が、父の遺骸をひきとるシークエンスを思いだしました。)
詳細は割愛させていただきますが、英語版では一部カットされていた島の娼館をめぐるエピソードや、ドロレスが闘鶏場での揉め事を手際よくおさめ才覚をみせるシーン。さらには、ウォーカーについてはロンドンでの下宿先の女主人や妻(英語版では登場せず!)の証言など、伏線として積み重ねられており、後半の島を焼き尽くす戦闘場面へと続いていきます。
ひととおり全長版を鑑賞し、作品の持つパワーは製作から半世紀を経てもいっそう強く深く心に残るものが感じられました。
元々のテーマは約300年にわたってカリブの島々の先住民を殲滅し、アフリカからさらってきた黒人達の労働力をもとに搾取し続けてきたヨーロッパの植民地主義の非道、愚劣さを白日のもとにさらし、真の独立をうたうものですが、単なる過去の告発にとどまってはいません。マーロン・ブランド演じるウォーカーは目的のためには手段を選ばぬ非情な策略家ですが、単純な悪人とは言い切れぬ人間として描かれておりそこにこの作品の今日的テーマが見え隠れします。
ジッロ・ポンテコルボ監督は前作『アルジェの戦い』があまりにセンセーショナルであったがゆえ、ともすれば『ケマダの戦い』に込められた奥深いメッセージはかすんでしまいかねません。今回の全長版で改めて評価されるべきではないでしょうか。