ショルティは、近年のワーグナー指揮者の中では、カラヤンとともに頭抜けた存在であり、1958年から1965年にかけて録音された「ニーベルングの指環」四部作全曲盤は、未だに、同曲のベスト盤として、圧倒的な評価を受けている。
そんなショルティが、同じオケと同じ録音場所で、1982年、彼が70歳時に、「ニーベルングの指環」四部作のオーケストラ・パートの名曲の抜粋盤として再録音したのが、このCDである。「ニーベルングの指環」四部作自体がワーグナーの最高傑作であり、「ワーグナー管弦楽曲集」として見ても、選曲的に申し分ない。
冒頭の「ヴァルキューレの騎行」は、「ジークフリートの葬送行進曲」とともに、「ワーグナー管弦楽曲集」での定番曲となっているが、最もショルティ向きの曲といってもよく、そのドラマティックで切れ味鋭い演奏は圧巻であり、これは、同曲のベストの演奏といっても過言ではないだろう。
「ジークフリートの葬送行進曲」と「フィナーレ」については、ショルティの前記全曲盤での「神々のたそがれ」の演奏と比較して聴いてみたのだが、まず、「ジークフリートの葬送行進曲」のテンポが、極端に遅くなっているのに驚かされる。テンポの遅さは、そのまま曲の掘り下げの深さに繋がっており、力で押し切る傾向のあった若き日の演奏と比べると、弱音部での木目細やかな表現力が際立っており、ショルティの変化、円熟を強く感じる。
「フィナーレ」は、「ワーグナー管弦楽曲集」では滅多に演奏されない曲だと思うが、「ニーベルングの指環」全曲の最後を飾るにふさわしい感動的な名曲であり、ショルティは、円熟の名人芸で、壮大なクライマックスから、美しくも物哀しい弱音部の旋律までを見事に描き分け、最後は、厳かに、全曲を締め括ってみせる。