米本国では昨今のミュージック・シーンに確固たる?地位を占めるカーラ・ボズリッチは、しかし、日本ではほとんど無名のようだ。これは残念でならない。ジャンルの壁に阻まれている、ということなのだろうか。彼女の音楽は、敢えてジャンル分けするなら「アート・カントリー・パンク」とでも言う他ないが、そう言ったところで実際にどんなものなのか、イメージは何も伝わらないだろう。つまり、「まずは聴いてみて下さい」というしかないのではあるのだけど。
1980年代からジェラルディン・フィバーズやエヴァンゲリスタといったバンドで活動していたカーラにとって、2003年リリースのこれは初のソロ・アルバム。ウィリー・ネルソン御大の出世作である1975年の同名のアルバム
Red Headed Stranger
を、全曲そっくりカバーしたという異色の構成。ソロ・デビュー作にしてこの始末なのだから、一筋縄では行かない人であるのは間違いない。しかし、このアルバムを聴き始めれば、すぐに地に足のついたアーチストとしての彼女の存在感の確かさを感じることになる。御大自身も3曲ほど付き合っているので、ある意味「公認」カバーということにもなる。
「私は語り手であり、民話の伝統に命を吹き込みたいと思っていた。それをギターとドローン・ボックスで始めたのだけど、(ギタリストの)ニルス・クラインが私のアイデアを実現するのを手伝ってくれて、彼のグループも参加してくれたの。」と、本人が語る通り、このアルバムでは背景のドローン(持続音)が特徴的なサウンドを作っていて、ノイズ/アヴァンギャルド的な「不穏な空気」をまき散らしている。一方で曲自体はカントリーそのものなので、ヴォーカル・パートだけならば誰が聴いてもカントリー・ミュージック。しかし、そもそも、カントリーはひたすらに「明るく陽気な音楽」のように(特に日本では)思われているかもしれないが、本質は孤独に苛まれて、「故郷」や「恋人」や「仲間」や「自然」や「過去」や「伝統」などとの絆を希求する音楽であるので、この荒涼としたサウンドもその本質を突いたものかもしれない。また、米国では、アルバム制作中に起きた911とその後のイラク侵攻がアルバムの内容と微妙に呼応して、さらにイメージを広げていると受け止められているようだが、そのあたりは言葉の問題で日本人には伝わりにくいのは仕方ないのだろう。
いや、しかし、やはり「まずは聴いてみて下さい」と言うしか無いか(笑)。これをウィリー・ネルソンのオリジナルと並べて聴けば、カントリー・ミュージックに対する見方が一変するかもしれませんよ?