Kissinと言うピアニストは、どうやらChopin、Rachmaninovのような作曲家は得意だけれども、Beethoven、Brahmsは苦手ではないのかな、と言う印象を勝手に持っていた。Brahmsは他の作曲家に比べても、難しい割には弾き映えせず、パッとしない。だからKisinも、Brahmsについては、遠慮しているのではないか、と感じていた。ところがこうして聴いてみると、難曲にしては退屈なBrahmsを見事に弾いている。
Brahmsの作品5であるピアノ・ソナタ第3番は、作曲家がまだ20歳の頃に発表された作品で、彼の作品の中では難曲に分類されているようだ。それにもかかわらず、知名度は高くないし、弾き映えがする曲とはとても言い難い。Beethovenならば同じ難易度でも、聴衆を惹きつける作品を作れるだろうに、Brahmsはそれほど器用な音楽家ではない。ところがKissinはこの曲を巧みに再現している。
KissinもこのCDを録音したのが、ちょうど30歳の誕生日をむかえて2か月後であるから、恐らくそろそろ難しい割には弾き映えのしないBrahmsに挑戦してみようと思ったのかもしれない。CDのジャケットを見ると、童顔だったKissinも、ちょうどヒゲの目立つ顔になってきたようだ。Brahmsは、退屈ではない、と言うことを十分に表現してくれている。
KissinのMozartを今度は、聴いてみたい、そう思わせる演奏である。