タイトルからイメージして「際物映画か」とずっと思っていました(監督の『ハモンハモン』も『ルルの時代』もなかなかに無茶苦茶でしたし)。しかしNHKのBSで偶然見て評価を改めました。比較するならフェリーニの『アマルコンド』に近いものがあります。ノスタルジックで、その中心にあるのは年上の女性に対する思春期前のそこはかとない思慕です。それとは別個に大人達の恋の鞘当てや日常生活が描かれ、そして少年は大人への扉を開いていくのです。カトリックの国ならではの、大らかさの中にある倫理性と、そして聖母的なるものを求める心象があります。
それから美術的な意匠にも目を見張るものがあります。ハリウッド的な美術に慣れてしまっていると、映画の根源であるこの見せ物的な美術にかえってハッとさせられます。カタルーニャの人間ピラミッドが冒頭とラストに出てきますが、人工的ではない、人のぬくもりのあるスタイリッシュさに感動します。回転する箱の上のマチルダ・メイも同様です。随所にセンスの良さが光っているのです。
かつてヨーロッパ映画がハリウッド映画以上に日本で上映されていた時期がありました。しかし今となっては、外国映画はすなわちハリウッド映画であり、スターの人気投票上位にアラン・ドロンやC.カルディナーレがランクインしていた時代がウソのようです。しかし確実にヨーロッパでは良い映画が作られ続けており、特に近年のスペイン映画は素晴らしい(少し前まで日本に入ってくるスペイン映画はエリセ監督作位のものだったのです)。この映画もまたしかり。万国向けではないものの、地域性に徹しているからこそより深い所で普遍的なのです。色々な出自を持つ主人公が交錯しますが、皆憎めなく、人間くささを十二分に伝えてくれます。現代日本に生きる我々にとってそれは無い物ねだりなのかも知れませんが、それでもやはり心の琴線に触れてきます。