パットベネターは70年代後半からロックシーンに登場したが、そのスタイルはほぼユニセックス、いわば『手ごわくってカッコいい女』だった。そしてそれが時代にマッチするattitudeだったと言ってもいい。“普通の女の子”が軽いノリでロックするのは何もかもが熟し切ってしまった'80年代後半の話だ。
オジサンはその頃、ろくに勉強もせずどっぷりとMTVにハマっていた中高生だったが、女性ロッカーが少なかった当時、パットのハスキーボイスは心の真ん中にジンジン響いたものだった。
こんなパワフルでクールで、それでいてセクシーな女はちょっと日本じゃ見当たらない。
パットに比べたら同級生の女子どもはお子様だ。こんな女を口説ける大人の男に早くなりたい…とその時は痛切に思った。
麦茶がどくどくコップから溢れるのも気づかずに『la bel age』のPVに見とれたものだ (意外と評価されない"Seven the hard way"は決して悪いアルバムじゃないと思うのだ)。
今このベストアルバムを聞き返していて思うのだが、やはりパットの歌声は心に響く。クール&ハードな外見もさることながら、この圧倒的な歌唱力に、背伸びしたい年頃の坊やたちの心はヤラれてしまったのだろう。
オジサンにとっては、マドンナでもボニータイラーでもなく、パットベネターこそ本物の『女ロッカー』だ。いや、本当は男や女じゃなく、何を歌っても人の心を打つ『本物のシンガー』というべきだろうか。
パットは55歳になる今でも精力的にツアーを行っている。あの歌声は健在だそうだ。MSGじゃなくてもいい。ビルボードのチャートを賑わせなくてもいい。ただ、末永く歌い続けて欲しい。パットはまだ歌っている。そう思うだけで、勇気づけられるオジサンがいる限り…。