ダークな大型絵本をバラリ、バラリとめくるような語り口と構成、絵面。田舎を回り、未亡人をあやめる真っ黒ないでたちの偽伝道師と、彼がつけ狙う2人の子供、子を守る老婆レイチェルの攻防・・。1990年公開当時(製作は1955)、ミッチャムの禍々しさばかり記憶していました。しかし最近、再見したところ、本作は実はスリラーとは言い切れないものでした。
不法な金を幼い2人の我が子に託して刑に処されたある男の未亡人。ハリーは彼女を次の標的にし、未亡人に近づきます。子らは継父に収まったハリーの正体に気づき逃亡。多くの孤児を女手ひとつで引き取り育てる敬虔なクリスチャンの老婆レイチェルにかくまわれる・・。
悪魔は堕ちる前は天使だったという話をどこかで読みました。つまり悪魔はかつて天上にいたが神から離反した堕天使です。厳密な学術的説明は持ちだせないですが、1つの視点として、レイチェル(リリアン・ギッシュ)は神に仕え、か弱い者を守護する天使であり、ハリー(ロバート・ミッチャム)は堕落した「元」天使に思えます。守護天使は醜き「下界」に堕ちた裏切り者の前に毅然と立ちふさがる・・。
ハリーは人には理解できないもの、人として認識できない「人らしき者」として存在しています。画面のこちらにいる我々にはそう見えますが、劇中の町のひとたちはすっかり、未亡人をはじめ、言葉たくみに罪悪感、空虚感を堕天使に利用され、鵜匠のような彼に籠絡してしまうのが皮肉です
(これには舞台となった恐慌中の1930年代という時代性もあるでしょうし、未亡人の不安もあるでしょう)。これを見抜くのは子供たちであり、幼子の守護天使たる老婆レイチェル。一方は神を利用し、他方は神の言葉に従う。讃美歌「主の御手に頼る日は」を歌い競うシーンの異様さ。近づくお互いの存在に呼応するエセと本物。邪なハリーと清廉でたくましいレイチェルとの鮮やかな類似と対比、正統と異端、善と悪、原始キリスト教世界を反映した作品と観てみました。
もうひとつ頭をよぎったのは、民間伝承「ハメルーンの笛吹き」、Pied Piperです。日本では改変され、毒気を抜かれたおとぎ話とイメージされるかも知れませんが、諸説あり、現在でもさまざまな解釈がなされる実はコワイお話しのようです。厄災の象徴です。
ハリーは、全国的に知られたウェストヴァージニア州のハリー・パワーズにもとづいているらしい。彼は1932年3月に有罪判決を受けた「クワイエット・デルの青ひげ」といわれた連続犯罪者でした。ある未亡人と3人の子と別の未亡人、セールスマンが犠牲者。パワーズの(および本作の)キャラは映画Something Wicked This Way Comes (1983. ブラッドベリ原作『何かが道をやってくる』。日本未公開、VHS発売)のMr. Dark(ジョナサン・プライス)に影響を与えたという意見もあります(注1)。
ナイトメアを体現するハリーには無差別性や分裂した2面性が感じられます。右手の指に「LOVE」(愛)、左手には「HATE」(憎悪)とタトゥーがしてあるのです。これはミッチャムの『恐怖の岬』と『ケープ・フィアー』(『恐怖の岬』のリメイク)のタトゥーに引き継がれています。(他にも多くの作品に引用されているとのこと)。数々の異常なセリフと神への独白。ぬめぬめとした虚ろな瞳。狡猾と激昂。本作の前半の肝はソシオパスであるミッチャムのキャラ造形にあります。『恐怖の岬』と並ぶ代表作。
とはいえ本作のスリラー、オカルト性を強調すると、ロートン監督の描こうとしたことを見誤ります。どこまでも昏くありながら、宗教的メタファーを散りばめた牧歌的な夜の川下りと納屋の表現。本作が何にも似ていず、「美しい」宗教的童話たることを鮮烈に印象付けます。監督は「マザーグース的悪夢」と呼んだそうです(注2)。蜘蛛の巣、子を見守るような蛙、亀、狐、羊、そして書割的な満点の星空に、移りゆく月、揺れる水面。箱庭的なセットをあえて利用したこのシーンや、聖書の厩を思わせる水辺の納屋の家畜たち・・(丘の向こうから近づくハリーのシルエットに震え上がります)。まさに寓話性全開です。
そしてここをはさんで映画は違う展開を迎えます。大恐慌下、世界が子どもには生きにくく苛酷かつ残酷で醜悪なところ。その中で強く生きるのか、ダークサイドに堕ちるのか。川下り以降は世界へ出る前の幼子のダーク・ジュブナイルです。その予兆は継父という未知の脅威の描写にありましたが。
あの絵本みたいな夜の川下りは親のいない子の不安な道程ではないでしょうか。仔兎を襲うミミズク・・。本作の真の主役は2人の子供たちだったのですね。 子は天使と悪魔から学ぶ・・。「イノセンスだけでは生きていけない」と身をもって子に教える役割が、対照的なハリーとレイチェルの2人だと思います。サイレントの名花リリアン・ギッシュの見た目とは裏腹な叡智、タフネスと慈愛には打たれます。童話「赤ずきん」との類似性を挙げた評も見ました。さらに「三匹の子豚」を本作に見ることも可能でしょう。三匹目の子豚は、信仰と自立というレンガを積む・・。
しかしながらどこかぎくしゃくした感があります。マス・ヒステリー、モラル・パニックの描写も不徹底で・・。ただ本作は唯一無比の昏い輝きを放ち、忘れがたいイメージを抱えていて、崇高さと戦慄の不完全な同居にその魅力があります。初監督であった名優チャールズ・ロートンの実験精神や熱意が感じられます。英出身のためか監督の黒いウイットと辛辣な視線も。『情婦』『スパルタカス』等で知られる彼の、残念ながら唯一の監督作になってしまいました。
この2人と子どもたちとともに、核をもたない子らの母、未亡人役のシェリー・ウィンタースの凡庸な雰囲気(ごめんなさい)もいいです。情けないくらいにコントロールされる従順さは恐ろしくギッシュと対照的でした。光差す水底になびく藻と金髪のおぞましき美しさは特筆モノ。川下りと並ぶ眩惑的で戦慄する名場面です。
撮影はスタンリー・コルテス(ウェルズの『偉大なるアンバーソン家の人々』、フラーの『ショック集団』『裸のキッス』。『チャイナタウン』ではポランスキーと喧嘩して降りたそうな)。室内なのにやけに遠くから撮ったような奇妙な被写体との距離感。いくぶんかのドイツ表現主義と白と黒のコントラスト。
これらが観る者に手の届かない無力感と不安を植え付けます。霊歌をうまく使ったウォルター・シューマンの静謐な音楽。OPはリンチ版『DUNE砂の惑星』みたいです。
注はamc filmsite , The Greatest Films, movie review by Tim Dirksの記述より。
The Night of the Hunter , 1955, US, Paul Gregory Productions / United Artists
Theatrical aspect ratio, 1.66 : 1 (intended ratio), Mono, 92 min, B&W
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画質はこの時代のDVDとしてはまあまあ。若干甘く荒目だが許容範囲。片面1層、映像仕様4×3 LB(ヴィスタ)。
画面アスペクト比は1.66: 1のヨーロピアン・ヴィスタ。
IMDbでも上記のように1.66 : 1 (intended ratio)と記載されてます。上映時マスキングの場合はIMDbではSphericalと記載されるようですが本作もそう記載されてます。つまり米劇場上映時サイズで収録しているといちおー考えられます。先行レビューのアキさまご指摘のように、この比が監督が意図した比率かと。テレビ放送や従前の北米MGM商品は、ネガ全面をまるまる使用した(上映時マスキング部分も表示する)仕様という位置づけではないかと思います(北米MGM盤はAmazon.comでは1.33.1となっています)。どちらが良いかは言いづらいです。ただ本商品はご指摘のように4×3の中でヴィスタとなっていること(左右ブラックバーあり)、画質がやや甘いことは確かに残念です。
(2010年に北米クライテリオン・コレクション愛蔵盤BD,DVDは、映像仕様16×9 LB(つまりスクイーズ)でアスペクト比は1:1.66の画角です。英語字幕あり、特典満載の2枚組BD, DVDですが、HPの映像は超美麗とまではいえない画質でしたが、きれいです)
Dolby Digital, Mono,
音声:英語Mono
字幕:日本語のみ。字幕ON/OFF可
チャプターメニューあり。
映像特典:
プロダクション・ノート(静止画5枚)、スタッフ、キャストのプロフィール、米予告編(字幕なし)、
ポスター(静止画5枚。ちっちゃすぎる)。
MGM, 発売20世紀Fox
関連キーワード:
1930年代、農村、偽伝道師、マスマーダー、ソシオパス、タトゥー、未亡人、兄妹、ジュブナイル、川下り、動物、聖書、モーセ、ナイフ、水、再婚、初夜、継父、実在モデル、人形、影、ショットガン、集団ヒステリー、納屋、孤児、クリスマス、地下室、ファナティック、讃美歌
連想作:恐怖の岬、ケープ・フィアー、イントルーダー(コーマン)、The Hitch-hiker
狩人の夜 [DVD]
フォーマット | ワイドスクリーン, ブラック&ホワイト, ドルビー |
コントリビュータ | ロバート・ミッチャム, ジェームズ・アギー, シェリー・ウィンタース, ピーター・グレイヴス, リリアン・ギッシュ, チャールズ・ロートン |
言語 | 英語 |
稼働時間 | 1 時間 51 分 |
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商品の説明
レビュー
製作: ポール・グレゴリー 監督: チャールズ・ロートン 原作: デイヴィス・グラブ 脚本: ジェイムズ・アギー 撮影: スタンリー・コルテス/ウォルター・シューマン 出演: ロバート・ミッチャム/シェリー・ウィンタース/リリアン・ギッシュ/ジェイムズ・グリーソン/イヴリン・ヴァーデン/ピーター・グレイヴス
-- 内容(「CDジャーナル」データベースより)
登録情報
- アスペクト比 : 1.78:1
- 言語 : 英語
- 梱包サイズ : 18.03 x 13.76 x 1.48 cm; 83.16 g
- EAN : 4523215006361
- 監督 : チャールズ・ロートン
- メディア形式 : ワイドスクリーン, ブラック&ホワイト, ドルビー
- 時間 : 1 時間 51 分
- 発売日 : 2004/1/24
- 出演 : ロバート・ミッチャム, シェリー・ウィンタース, リリアン・ギッシュ, ピーター・グレイヴス
- 字幕: : 日本語
- 言語 : 英語 (Mono)
- 販売元 : 紀伊國屋書店
- ASIN : B0000W3NGQ
- ディスク枚数 : 1
- Amazon 売れ筋ランキング: - 175,775位DVD (DVDの売れ筋ランキングを見る)
- - 6,434位外国のミステリー・サスペンス映画
- カスタマーレビュー:
カスタマーレビュー
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トップレビュー
上位レビュー、対象国: 日本
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2015年8月13日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
2016年9月1日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
処女作において一気に才能を開花させ、 後世に残る最高作をつくりあげながら、
その後は サッパリという監督がよくいますが、
この監督も製作を続けていたら同じ運命だったのでしょうか。
撮影監督の貢献も大きいと思いますが、 光と影を強調した映像や構図は、
真に照明や撮影の教科書のようで見事です。
眠い目のミッチャムがエキセントリックな悪役を 楽しそうに演じ、
ギッシュも昔の面影を残し 魂の崇高さを感じさせます。
その後は サッパリという監督がよくいますが、
この監督も製作を続けていたら同じ運命だったのでしょうか。
撮影監督の貢献も大きいと思いますが、 光と影を強調した映像や構図は、
真に照明や撮影の教科書のようで見事です。
眠い目のミッチャムがエキセントリックな悪役を 楽しそうに演じ、
ギッシュも昔の面影を残し 魂の崇高さを感じさせます。
2017年5月9日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
昔の映画なので、今見るとセットが『んっ?』ていう所もありますが
ロバート・ミッチャムが不気味でハラハラさせてくれました。
買ってよかったです。
ロバート・ミッチャムが不気味でハラハラさせてくれました。
買ってよかったです。
2008年9月20日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
オーソン・ウェルズ監督の『黒い罠』と並んで本国アメリカでもヨーロッパでも高い再評価を受けている奇妙なフィルムが『狩人の夜』です。イギリスの名優チャールズ・ロートンが生涯唯一度だけメガホンをとった作品としても知られています。そしてこれは非常にユニークな雰囲気作りに成功している好例でもあり、同時にこれだけの独自性を持ちながらそれに見合うほどのありあまるインパクトとまとまりをいま一つ持ち得なかった点でもユニークな作品です。
怪優ロートンが演出した作品らしく、独特の不思議で捻じ曲がった雰囲気を持つフィルム。ホラー、フィルムノワール、、コメディ、児童劇が複雑にブレンドされています。そこはなるほど、『ハリウェル・フィルム・ガイド』の「いままでにはない雰囲気作りに成功した作品」という批評通りの独自さがあります。“ロバート・ミッチャム扮する自己中心的な悪徳牧師の魔の手が、お宝を隠し通す子供たちに迫る!”こうしたプロットライン上の一つ一つのシーンも実験精神あふれる映像で極めて記憶に残る奇妙で面白みのあるもの。光が差し込む暗い部屋で月明かりに照らされながら凶行に及ぶ牧師、水の中を水草とゆらゆら揺れる死体の髪の毛、子供たちの小船による決死の逃避行、どれも悪夢のように幻想的で刺激的です。このあたり、悪徳牧師が夜な夜な「頼れ、頼れ」と反復する不気味な歌声と併せて妙に心に残ります。
しかしながら、こうしたシーンの数々のつなぎとめ方と進め方がいささか性急過ぎて粗雑な感じがしてしまうところが難点。もっとじっくりと展開させたほうがインパクトが出てくると思われるシーンがあるのにもかかわらず、それらがしばしばカットバックで邪魔され興ざめしてしまうところが多し。前半部分、悪徳牧師に狙われた家族のエピソードでは、お菓子屋の老夫婦の会話がところどころ乱暴に挿入されていたりして、一つ一つのシーンがじっくり描けていないような印象を受けます。もっと悪徳牧師がじんわりと家族を侵食していく恐怖感が描写されていたらフィルム全体にさらなる奥行きが付け加わったのではと思うのですが、そのあたりの演出がいささか淡白すぎて薄味になってしまっているのです。そんな編集力と演出の弱みが、前半と後半の雰囲気の著しい違いに表れてしまっているのも事実。前半はサスペンス、後半は児童劇と整合性のとれないアンバランスさが作品のインパクトを少し弱めてしまっていて残念だと思います。この点は本編の熱烈な信望者であるフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーも「映画的文体の不統一」という言葉を用いてコメントしています。もっとも、それがこの映画の“新しさ、奇抜さ”であるといえばそれもまた正なり。しかし、さらに多くの場面の演出のタイミングがぎくしゃくして俳優の熱演が邪魔されているようなところも見受けられます。特に、後半でミッチャムの悪徳牧師がギッシュの家を訪れ、あろうことか彼女の目の前で目当ての子供たちを強引に捕らえようとして追い出されるシーンなどいささか素っ頓狂でタイミングをはずしているように見え、そのせいで迫力不足になってしまいインパクトに欠けてしまっています。
普段はリラックスした雰囲気をかもしだすロバート・ミッチャムも、かなり力の入った不気味な演技を見せます。まるで悪人であることを楽しんでいるかのようです。思えばこの人、『恐怖の岬』で見せた邪悪なキャラクターを演じると本当にうまい。ただ、この悪徳牧師が偽の涙を見せるシーンなどは少し演技が陳腐になってしまっていて、やはり演技の上の演技となるといささか技巧的には力量不足だったようです。くわえて、編集のせいなのか悪徳牧師の怖いキャラクターがいささか弱まってしまったのも残念。出演者のなかで一番の功労者といえば、やはり後半の立役者である孤児たちの老いた里親を演じたリリアン・ギッシュでしょう。小さな体から発せられる大物のオーラが子供たちを邪神から守ってくれるかのようです。彼女が出てくるだけで作品にしまりと格調が出てくるのが不思議。彼女に対しても悪徳牧師は邪悪で凶暴な力をもっと発揮してもらいたかったのですが・・・。
決して興行収入を狙ったわけではないB級フィルムだからこそできた果敢なチャレンジ。チャールズ・ロートンの彼らしいひねくれた映画作りが多くのファンを魅了したフィルムであることは間違いありません。そして事実、忘れることのできない奇妙なインパクトを持つ作品であることも疑いありません。しかし、個人的には全体としてもっとよく成り得たのではないかという気持ちが残ります。そんなわけで、その賛否も悪徳牧師の指に刻印された「LOVE」か「HATE」に別れることもまた事実であろうと思われます。(最も今は圧倒的にLOVEの意見が多いようですが)しかし以上の理由から、『狩人の夜』を大胆に失敗してしまった勇気ある実験作と言い表すこともたまには許されるのではないでしょうか。
怪優ロートンが演出した作品らしく、独特の不思議で捻じ曲がった雰囲気を持つフィルム。ホラー、フィルムノワール、、コメディ、児童劇が複雑にブレンドされています。そこはなるほど、『ハリウェル・フィルム・ガイド』の「いままでにはない雰囲気作りに成功した作品」という批評通りの独自さがあります。“ロバート・ミッチャム扮する自己中心的な悪徳牧師の魔の手が、お宝を隠し通す子供たちに迫る!”こうしたプロットライン上の一つ一つのシーンも実験精神あふれる映像で極めて記憶に残る奇妙で面白みのあるもの。光が差し込む暗い部屋で月明かりに照らされながら凶行に及ぶ牧師、水の中を水草とゆらゆら揺れる死体の髪の毛、子供たちの小船による決死の逃避行、どれも悪夢のように幻想的で刺激的です。このあたり、悪徳牧師が夜な夜な「頼れ、頼れ」と反復する不気味な歌声と併せて妙に心に残ります。
しかしながら、こうしたシーンの数々のつなぎとめ方と進め方がいささか性急過ぎて粗雑な感じがしてしまうところが難点。もっとじっくりと展開させたほうがインパクトが出てくると思われるシーンがあるのにもかかわらず、それらがしばしばカットバックで邪魔され興ざめしてしまうところが多し。前半部分、悪徳牧師に狙われた家族のエピソードでは、お菓子屋の老夫婦の会話がところどころ乱暴に挿入されていたりして、一つ一つのシーンがじっくり描けていないような印象を受けます。もっと悪徳牧師がじんわりと家族を侵食していく恐怖感が描写されていたらフィルム全体にさらなる奥行きが付け加わったのではと思うのですが、そのあたりの演出がいささか淡白すぎて薄味になってしまっているのです。そんな編集力と演出の弱みが、前半と後半の雰囲気の著しい違いに表れてしまっているのも事実。前半はサスペンス、後半は児童劇と整合性のとれないアンバランスさが作品のインパクトを少し弱めてしまっていて残念だと思います。この点は本編の熱烈な信望者であるフランスの映画監督フランソワ・トリュフォーも「映画的文体の不統一」という言葉を用いてコメントしています。もっとも、それがこの映画の“新しさ、奇抜さ”であるといえばそれもまた正なり。しかし、さらに多くの場面の演出のタイミングがぎくしゃくして俳優の熱演が邪魔されているようなところも見受けられます。特に、後半でミッチャムの悪徳牧師がギッシュの家を訪れ、あろうことか彼女の目の前で目当ての子供たちを強引に捕らえようとして追い出されるシーンなどいささか素っ頓狂でタイミングをはずしているように見え、そのせいで迫力不足になってしまいインパクトに欠けてしまっています。
普段はリラックスした雰囲気をかもしだすロバート・ミッチャムも、かなり力の入った不気味な演技を見せます。まるで悪人であることを楽しんでいるかのようです。思えばこの人、『恐怖の岬』で見せた邪悪なキャラクターを演じると本当にうまい。ただ、この悪徳牧師が偽の涙を見せるシーンなどは少し演技が陳腐になってしまっていて、やはり演技の上の演技となるといささか技巧的には力量不足だったようです。くわえて、編集のせいなのか悪徳牧師の怖いキャラクターがいささか弱まってしまったのも残念。出演者のなかで一番の功労者といえば、やはり後半の立役者である孤児たちの老いた里親を演じたリリアン・ギッシュでしょう。小さな体から発せられる大物のオーラが子供たちを邪神から守ってくれるかのようです。彼女が出てくるだけで作品にしまりと格調が出てくるのが不思議。彼女に対しても悪徳牧師は邪悪で凶暴な力をもっと発揮してもらいたかったのですが・・・。
決して興行収入を狙ったわけではないB級フィルムだからこそできた果敢なチャレンジ。チャールズ・ロートンの彼らしいひねくれた映画作りが多くのファンを魅了したフィルムであることは間違いありません。そして事実、忘れることのできない奇妙なインパクトを持つ作品であることも疑いありません。しかし、個人的には全体としてもっとよく成り得たのではないかという気持ちが残ります。そんなわけで、その賛否も悪徳牧師の指に刻印された「LOVE」か「HATE」に別れることもまた事実であろうと思われます。(最も今は圧倒的にLOVEの意見が多いようですが)しかし以上の理由から、『狩人の夜』を大胆に失敗してしまった勇気ある実験作と言い表すこともたまには許されるのではないでしょうか。
2015年9月7日に日本でレビュー済み
Amazonで購入
恐るべき作品でした。
チャールズ・ロートン監督が本作一本しか撮れなかったことが本当に悔やまれます。
本作でもっともおそろしいスプーン夫人。スプーン夫人はわたしたちの身の回りにあふれていると思います。そして本作でもっとも美しかった、スタンリー・コルテス撮影による馬の歩く姿の画から聴こえてくるふたつの音楽。そんな人間たちの愚かさと悪とそれと闘う存在と達観さえも動物たちはすべて超越している。本作のレビューもすばらしいものばかりでした。両手を使っての〈ラヴ〉と〈ヘイト〉の闘いの表現や神との普段からの会話シーンや水底を漂う死体の描き方は、多くの作品に影響を与えたシーンだと思いますが、永遠にもおもえる川を下るシーンは何度みても戦慄します。ビリー・ワイルダーの語るロートン監督「……彼はひとつの場面につき二十とおりものヴァージョンを見せてくれたーしかもそのさいに、台詞はひとことも変更しないのである。そのひとつひとつが、前のものより豊かになっている。もしくは、少なくとも興味深いヴァリエーションになっている」「ロートンは、おもちゃのいっぱいつまった部屋で遊ぶ子供のように、自分のあふれる才能のなかで存分に楽しむことができる人だった」という監督になぜ他の作品を撮らせることができなかったのか。この映画を観ないで一生を終えないでほんとうによかった。死ぬまで毎年観続けると思います。川で子供たちが力尽きてそのままボートで下っていくのを、蛙が、動物たちが……
そして人間たちが階段を昇るときに猫は下り、天使でさえ人間の愚かさを何度も嘆き、悪魔が捕まるときに悪魔から逃げていた子は悪魔を助けてと懇願する。人間の倫理では届かない領域も描いているので、何度みても退屈しないのではと思います。
チャールズ・ロートン監督が本作一本しか撮れなかったことが本当に悔やまれます。
本作でもっともおそろしいスプーン夫人。スプーン夫人はわたしたちの身の回りにあふれていると思います。そして本作でもっとも美しかった、スタンリー・コルテス撮影による馬の歩く姿の画から聴こえてくるふたつの音楽。そんな人間たちの愚かさと悪とそれと闘う存在と達観さえも動物たちはすべて超越している。本作のレビューもすばらしいものばかりでした。両手を使っての〈ラヴ〉と〈ヘイト〉の闘いの表現や神との普段からの会話シーンや水底を漂う死体の描き方は、多くの作品に影響を与えたシーンだと思いますが、永遠にもおもえる川を下るシーンは何度みても戦慄します。ビリー・ワイルダーの語るロートン監督「……彼はひとつの場面につき二十とおりものヴァージョンを見せてくれたーしかもそのさいに、台詞はひとことも変更しないのである。そのひとつひとつが、前のものより豊かになっている。もしくは、少なくとも興味深いヴァリエーションになっている」「ロートンは、おもちゃのいっぱいつまった部屋で遊ぶ子供のように、自分のあふれる才能のなかで存分に楽しむことができる人だった」という監督になぜ他の作品を撮らせることができなかったのか。この映画を観ないで一生を終えないでほんとうによかった。死ぬまで毎年観続けると思います。川で子供たちが力尽きてそのままボートで下っていくのを、蛙が、動物たちが……
そして人間たちが階段を昇るときに猫は下り、天使でさえ人間の愚かさを何度も嘆き、悪魔が捕まるときに悪魔から逃げていた子は悪魔を助けてと懇願する。人間の倫理では届かない領域も描いているので、何度みても退屈しないのではと思います。
他の国からのトップレビュー
Dom
5つ星のうち5.0
Génial
2023年5月12日にフランスでレビュー済みAmazonで購入
Chef d’œuvre .Film culte dans la carrière de R.Mitchum .
Filippo Poggi
5つ星のうち5.0
film eccezionale Hollywood classica
2022年6月12日にイタリアでレビュー済みAmazonで購入
Eccezionale dvd inglese video e audio perfetti in italiano con traduzione d'epoca a prezzo ottimo. Il film è un capolavoro assoluto.
Yanick
5つ星のうち5.0
*****EXCELLENT*****
2018年8月31日にカナダでレビュー済みAmazonで購入
*****EXCELLENT*****
Paul Wilcox
5つ星のうち5.0
A STYLISED CLASSIC!!
2013年12月6日に英国でレビュー済みAmazonで購入
The Night of the Hunter is a curious beast. It appears to the casual viewer as a simple tale of murderous preacher discovering the whereabouts of a stolen haul of cash and a battle of wits with a boy who knows where it is hidden. In a sense this IS the plot of the film.
However there is so much more to this tale than that.
British actor Charles Laughton made only one film as director and many see this as a master class. It is a very stylised picture and some suspension of belief and an appreciation of the art form is required. Laughton has filled the movie with shadows, reflections, silhouettes and framed scenes. There is a lot here that could suggest you are looking at a painting.
Scenes do jar from location filming to set dressed stages but that is part of its appeal. There is a chapter where the two child characters float down the river and just about every wildlife critter you can think of gets a front of screen cameo. The image of the underwater discovery is another standout.
It is also a difficult film to pigeon hole. You would think that the darker elements of horror would conflict with the collection of small town caricatures and the arrival of Lillian Gish's `Foster' mother. Even a teenage romance is briefly thrown in. the scene of a line of children following Gish's character like ducks could come straight out of a 50's musical yet it compliments the scene of a dead woman found by kids at the head of the movie. It even turns into a Christmas family film at one point.
Robert Mitchum's Preacher has become an iconic picture, leaning on the fence with "Love" and "Hate" tattooed on his knuckles. It's an acting tour-de-force at turns sinister, violent, melodramatic and comedic.
Shelley Winters is second billed but appears to do little more than stare into the distance. In fairness this is not her story.
stand out here is Billy Chapin as John, the boy who promised his criminal father that he would not tell anyone where the stolen money was hidden. His defiance against the Preacher keeps the movie grounded in reality. His performance is not usually intruded on by a visual effect or a stylised pose. He is(as are the children in To Kill a Mocking Bird) the storyteller here and the character we are all rooting for. It's a great performance from Chapin who has not been marred by bad child acting.
There is a Two Hour plus Documentary come behind the scenes feature. It is fascinating in watching how a film of this age was made and an insight to the life and film making style of Laughton. It's nice to hear an isolated music score as well. Not enough releases have this.
To sum up, this film is best suited to movie lovers who can appreciate how this film was made and to those who can suspend a little bit of disbelief. The story is simple and straightforward but you need to look at the film as a whole. You will be rewarded.
Arrow continue to bring out excellent releases
However there is so much more to this tale than that.
British actor Charles Laughton made only one film as director and many see this as a master class. It is a very stylised picture and some suspension of belief and an appreciation of the art form is required. Laughton has filled the movie with shadows, reflections, silhouettes and framed scenes. There is a lot here that could suggest you are looking at a painting.
Scenes do jar from location filming to set dressed stages but that is part of its appeal. There is a chapter where the two child characters float down the river and just about every wildlife critter you can think of gets a front of screen cameo. The image of the underwater discovery is another standout.
It is also a difficult film to pigeon hole. You would think that the darker elements of horror would conflict with the collection of small town caricatures and the arrival of Lillian Gish's `Foster' mother. Even a teenage romance is briefly thrown in. the scene of a line of children following Gish's character like ducks could come straight out of a 50's musical yet it compliments the scene of a dead woman found by kids at the head of the movie. It even turns into a Christmas family film at one point.
Robert Mitchum's Preacher has become an iconic picture, leaning on the fence with "Love" and "Hate" tattooed on his knuckles. It's an acting tour-de-force at turns sinister, violent, melodramatic and comedic.
Shelley Winters is second billed but appears to do little more than stare into the distance. In fairness this is not her story.
stand out here is Billy Chapin as John, the boy who promised his criminal father that he would not tell anyone where the stolen money was hidden. His defiance against the Preacher keeps the movie grounded in reality. His performance is not usually intruded on by a visual effect or a stylised pose. He is(as are the children in To Kill a Mocking Bird) the storyteller here and the character we are all rooting for. It's a great performance from Chapin who has not been marred by bad child acting.
There is a Two Hour plus Documentary come behind the scenes feature. It is fascinating in watching how a film of this age was made and an insight to the life and film making style of Laughton. It's nice to hear an isolated music score as well. Not enough releases have this.
To sum up, this film is best suited to movie lovers who can appreciate how this film was made and to those who can suspend a little bit of disbelief. The story is simple and straightforward but you need to look at the film as a whole. You will be rewarded.
Arrow continue to bring out excellent releases
Wing J. Flanagan
5つ星のうち5.0
A dark journey on the river of dreams...
2001年9月28日にアメリカ合衆国でレビュー済みAmazonで購入
There are images in Night of the Hunter, Charles Laughton's only film as a director, that will sear themselves into your brain and haunt you the rest of your life. That's not hyperbole; this film is simply that potent.
Nothing about Night of the Hunter is "realistic" or even plausible - not the plot, not the dialogue, not the behavior of the child characters, not the photography. Yet, Night of the Hunter transcends realism utterly to do something far more challenging than merely create a simulacrum of reality. It creates a waking dream - a vivid hallucination of fearsome beasts, tragic heroines, children in peril, and ultimate redemption. It succeeds as a modern fairy tale in the darkest tradition of the brothers Grimm. Even comparisons to German expressionist cinema of the silent era (apt though they are) diminish the singular, elemental power of this film. The Cabinet of Dr. Caligari and Nosferatu are stunning, but it's hard to imagine either of them getting under the skin in quite the same way.
The plot centers on the evil machinations of Harry Powell (Robert Mitchum), a murderous, psychotic "preacher" who does time with bank-robber Ben Harper (Peter Graves), father of two young children (Billy Chapin - brother of Father Knows Best star Lauren, and Sally Jane Bruce). Before being taken away by the police, Harper hid the money he stole and swore his children to secrecy about its location. No one else - not even their mother Willa (wonderfully played by Shelley Winters) - knows where the money is hidden. But after Ben Harper is hanged for the murder of two bank guards killed during the robbery, Harry Powell makes it his business to find out. Thus begins a cinematic odyssey like no other, filled with stark symbolism and eerie imagery.
Perhaps the most unsettling image is the celebrated shot of Willa's corpse in the river, strapped into a car, her hair billowing out in the water like the aquatic plants that surround her. It is one of the strongest images in all cinema - comparable to the baby carriage racing down the Odessa steps in Battleship Potemkin, or the eyeglasses landing on the snow-covered battlefield of Dr. Zhivago.
The central sequence is a boat journey that the children take down-river in an attempt to escape the evil preacher. Though obviously filmed on a sound stage and filled with incongruous and frankly theatrical moments, the overall effect is nearly overwhelming in the way it evokes childhood fears of abandonment and pursuit. Every time I see it, I fall completely under its spell.
Stanley Cortez's breathtaking black-and-white cinematography is complemented by Walter Schumann's atmospheric score. There is a moment during the river journey when Pearl (the little girl) begins singing a children's lullaby. The orchestra swells and turns the song into a dreamy, meditative piece of night music - filled with dread, sadness, and awe. It's not at all realistic, but if that scene doesn't give you chills, then you're just made of stone.
It is fitting that Lillian Gish plays the children's savior, the elderly Mrs. Cooper - a righteous woman with a steely constitution. Gish was there for the birth of cinema itself. Her presence in Night of the Hunter is like seal of approval, a testimony to this film's enduring status as a classic.
My only reservation with this otherwise superb DVD is the warning at the beginning that "This film has been modified from its original version. It has been formatted to fit your TV". Either that's flatly untrue (as Night of the Hunter looks perfectly at home in 4:3), or MGM has cheated us by not giving a true American classic its due.
Nothing about Night of the Hunter is "realistic" or even plausible - not the plot, not the dialogue, not the behavior of the child characters, not the photography. Yet, Night of the Hunter transcends realism utterly to do something far more challenging than merely create a simulacrum of reality. It creates a waking dream - a vivid hallucination of fearsome beasts, tragic heroines, children in peril, and ultimate redemption. It succeeds as a modern fairy tale in the darkest tradition of the brothers Grimm. Even comparisons to German expressionist cinema of the silent era (apt though they are) diminish the singular, elemental power of this film. The Cabinet of Dr. Caligari and Nosferatu are stunning, but it's hard to imagine either of them getting under the skin in quite the same way.
The plot centers on the evil machinations of Harry Powell (Robert Mitchum), a murderous, psychotic "preacher" who does time with bank-robber Ben Harper (Peter Graves), father of two young children (Billy Chapin - brother of Father Knows Best star Lauren, and Sally Jane Bruce). Before being taken away by the police, Harper hid the money he stole and swore his children to secrecy about its location. No one else - not even their mother Willa (wonderfully played by Shelley Winters) - knows where the money is hidden. But after Ben Harper is hanged for the murder of two bank guards killed during the robbery, Harry Powell makes it his business to find out. Thus begins a cinematic odyssey like no other, filled with stark symbolism and eerie imagery.
Perhaps the most unsettling image is the celebrated shot of Willa's corpse in the river, strapped into a car, her hair billowing out in the water like the aquatic plants that surround her. It is one of the strongest images in all cinema - comparable to the baby carriage racing down the Odessa steps in Battleship Potemkin, or the eyeglasses landing on the snow-covered battlefield of Dr. Zhivago.
The central sequence is a boat journey that the children take down-river in an attempt to escape the evil preacher. Though obviously filmed on a sound stage and filled with incongruous and frankly theatrical moments, the overall effect is nearly overwhelming in the way it evokes childhood fears of abandonment and pursuit. Every time I see it, I fall completely under its spell.
Stanley Cortez's breathtaking black-and-white cinematography is complemented by Walter Schumann's atmospheric score. There is a moment during the river journey when Pearl (the little girl) begins singing a children's lullaby. The orchestra swells and turns the song into a dreamy, meditative piece of night music - filled with dread, sadness, and awe. It's not at all realistic, but if that scene doesn't give you chills, then you're just made of stone.
It is fitting that Lillian Gish plays the children's savior, the elderly Mrs. Cooper - a righteous woman with a steely constitution. Gish was there for the birth of cinema itself. Her presence in Night of the Hunter is like seal of approval, a testimony to this film's enduring status as a classic.
My only reservation with this otherwise superb DVD is the warning at the beginning that "This film has been modified from its original version. It has been formatted to fit your TV". Either that's flatly untrue (as Night of the Hunter looks perfectly at home in 4:3), or MGM has cheated us by not giving a true American classic its due.