まるで、様々な現代音楽の手法を次から次へと旅していくような音楽です。
ミクロポリフォニー → 持続音のうねり → 点描 → 静寂 → 静的な持続音の綾 → ミクロポリフォニー → グリッサンドの波 → ミニマルミュージックもしくはパルス → 様々な技法の複合体へ……
…といった具合に、様々な音楽が現れては、ゆっくりオーバーラップして次の音楽へと舞台を譲り…を繰り返します。
音の変化に加えて、スペクトル楽派らしい深みのある響きが随所に現れては消え、現れては消え…。
やがて、いろんな手法が重層的に積み重なり、エンディングへ。
これが単一楽章で1時間続きますが、決して平板にはならず、面白い。むしろ、あっという間の1時間でした。
全体としてうまく構成されていて、不自然に感じる展開は全くありません。ちゃんと一つの曲としてきれいにまとまっています。
さながら、現代音楽の走馬灯のようです。
現代音楽のCDにはレビューがついていてもせいぜい数個なのに、この音盤には10個ついているのにもうなづけます。
久々に新しい現代音楽に夢中になりました。
タイトルは "in vain"。
辞書によると、「無駄に」とか「無意味に」とあります。「甲斐なく〜に終わる」というニュアンスもあるようです。
作曲家の ゲオルク・フリードリヒ・ハース (1953-) は果たしてどんな意図でこのタイトルをつけたのかわかりませんが、私がなんとなく想像するに、「特に深い意図はないよ」ということではないでしょうか。
音の表情をいろんなテクニックで変化させていくだけでも、立派な音楽は作れる。それを表面的と批判する人もいるかもしれない。しかし、テーマや表題がない分、逆に「絶対的な音楽」だと言うこともできる。
「あえて無意味に」、ただ音がうつろうことを徹底的に追求した絶対音楽。
そういう意味だと私は解釈しています。
ゲオルク・フリードリヒ・ハース の音盤は、KAIROS とか NEOS など、現代音楽に力を入れているレーベルから何枚もリリースされているようですが、その多くが廃盤になっているのが残念。
この "in vain" をきっかけに、他の作品もぜひ聴いてみたいのですが。
KAIROS の過去の音盤は mp3 でダウンロード販売されていますが、音響にこだわったスペクトル楽派の作品だけに、CDやハイレゾで聴きたいところ。
KAIROS の CD quality のダウンロードは、ちょっと前まで海外のクラシック音楽専門サイトで購入できたのですが、どういうわけか最近は mp3 のみか、そもそもダウンロード販売自体を取りやめてしまっているようです。
こんな密林大河の片隅でボヤいていても仕方ありませんが、KAIROS にCDクオリティのダウンロード販売をお願いしたいところです。
追記(2021.9.12)
KAIROS のサイトに「非圧縮音源やハイレゾ音源のダウンロード販売はしないのですか?」とメールで尋ねたところ、近日中に始めるとのこと。
やった! これで買いそびれてしまっていた音盤が聴けますっ!