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クリスティーナ・ブランコのオリジナル・アルバムとしては5枚目にあたり、2003年5月にユニバーサル・フランスのEmarcyレーベルからリリースされた1枚だ。徹底したアコースティックと異国性が際立っていた3作目『夢を追う人』にくらべると、よりスケールが大きくなり、アレンジの幅も現代的になった。そして、いよいよ自信に満ちたクリスティーナのヴォーカルの充実ぶりが素晴らしい。情感たっぷりだが、決してべっとりとしたクセはなく、一種のさわやかさ、明晰さが感じられる。ここには、「官能」をテーマにした、13世紀から現代まで古今の詩が集められている。たとえば5曲目の「あなたの魂が気づいたら」はシェイクスピアの詩である。これらの音楽を聴きながら、対訳をじっくり読んでみると、言葉の激しさ、深さ、霊感に圧倒される。こうした詩の数々がブランコの歌の魅力の源泉となっていることは間違いないだろう。
アコースティックを基本としながらも、3曲目「オ・メウ・アモール(わが愛)」では、ジャズ風で都会的な雰囲気も漂わせる。6曲目「襲撃」では、激烈なエロティシズムが表現されている詩に対して、おおらかで穏やかな歌が奇妙なコントラストをなしている。そうした性感覚は、アマリア・ロドリゲスが歌っていた7曲目「ニンファス」にも感じられるし、13世紀の古いポルトガルの詩に作曲されたアルバム最後の曲「わたしを愛していたので」のポップ性にも感じられる。ヨーロッパの音楽シーンを席巻するポルトガルの新しいファドの生命力と奥深さがうかがえ、しかも日本人が聴いても共感しやすい聴きやすさもある傑作だ。(林田直樹)
メディア掲載レビューほか
ボサノヴァ・シンガー、クリスティーナ・ブランコのアルバム。「ニンファス」「オ・メウ・アモール」「あなたの魂が気づいたら」他を収録。 (C)RS