約2ヶ月ほど鳴らし込んだところで、耳馴れして当初の感激も薄れ解像度や色付けの点で不満も覚えるようになってきたので、購入前からの計画通り改造に踏み切った。
[当然のことながら、分解や改造によって保証の適用除外となる可能性があり、結果は自己責任となる]
"改造"といっても大袈裟なものではなく、具体的には、分解して左右それぞれのハウジング裏に両面テープで貼られている5.5x3cm大の黒色長方形の吸音パッドを剥して、また元通りに組立てる、ただそれだけ。
この改造についてはアマゾンUKのHD595のレビューで知ったが、分解・改造方法を指南する動画は現在YouTubeにも数種投稿されており(日本語版動画の有無は知らない)、多いもので10万回を超える再生回数といい、それに寄せられた多くの賛同コメントといい(公平を期しておくと、反論コメントも当然ある)、HD555の改造行為(mod)は少なくとも海外ではかなり広く知れ渡っていると思って間違いない。
費用もかからずミニ・ドライバー1本(+)で誰にでも出来る簡単なこの改造だけで、一説には、『HD555=周波数特性:15〜28000Hzの音質を上位モデルのHD595=同:12〜38500Hzと同等にすることが可能』ともされる。そして、一度改造した後でも、除去した吸音パッドを捨てずに丁寧に保存しておけば、また貼り直すことでいつでも改造前の状態に復元することも可能なので、その点も安心である。
[予め、筆者は次の主張の真偽を云々する立場にない、と断っておく]
ところでHD555とその上位モデルHD595の"微妙な"関係について、改造肯定派の主張を要約しておくと―
『555は、吸音パッドを595に追加装着することによって残響感を人為的に創り出し、例えば、銃声・爆破音・雷鳴などのサウンド・エフェクトの臨場感や迫力、飛行体の移動シーンなどでの音場の方位感といった雰囲気を手軽に擬似サラウンド感覚で楽しめるよう595の音響特性をより映像メディア視聴向け(自分はやらないが、多分ゲーム音響にはベスト・マッチだろう)にチューニングしたモデルである』―らしい。さらに―
『この吸音パッド装着にはデメリットもあり、そのため、555は一聴すると595に劣る音質傾向のように感じられる。しかしながら、価格面でも差別化されている555と595であるが、実のところ、ケーブルもドライバーユニットも共用パーツで構成されており、両機の性能差は、そのポテンシャルではなく実質的には吸音パッドの有無から生じる性格付けの差でしかない。従って、安価な下位モデルでありながら、簡単な分解改造によって595同等品にグレードアップ(?)可能な555は、一粒で二度美味しい大変お得なモデルである』―ということになるようだ。
[蛇足ながら、こうした"微妙な"関係は、ゼ社500シリーズの後継モデルである現行のHD558とHD598の関係にもそのまま継承されている、という意見もあることを付記しておく]
さて、オリジナル555の音質特性については、ゼ社の商品説明や『4℃』さんのユーザー・レビューが簡にして要を得ているように思うのでそちらに譲るとして、ここでは、改造後=555改の印象を記しておくと―
1 全域での解像度の向上
2 高低両域の伸びの増強
3 音ヌケの改善
4 ヴォーカル域の鮮明化・強調(ないし前方移動)
オリジナル555に比して、要約すると大体この4点の変化を実感出来た。もしブラインドで改造前後の2機の555を店頭で試聴する機会があったなら、恐らく大多数が555改の方が「音質に優る」と感じる程度に両者のレヴェル差はあると思う。
しかし、よりフラットな傾向で音ヌケが良くなった分、やはり、左右チャンネルのみでサラウンド感を醸し出すオリジナル555の娯楽性に富んだユニークな魅力が失われる功罪両面あるのも事実で、ことマルチ・チャンネル収録のDVD再生では、例えば、クリアネスが増しセリフ篭りやサントラ域の分離が改善し聞き取り易くなる一方で、全体は立体感が大人しくなって音場が狭まる印象、具体的には、透明感や力感、埋没音が復活する等、それ自体は好ましくなるものの、回り込んでくるような効果音の迫力(臨場感・重量感・遠近感)に以前ほどの"雰囲気"を感じなくなる、といった具合である。
吸音パッド除去によって特徴的だった"拡がり"感は減じるが、それは、そもそも人工的な音作りであったものがより自然な方向に修正されたに過ぎない、と捉える方がむしろ素直な見方なのかも知れない。
ついでながら、組立て時にネジの締めが弱い場合、どうも音が余計軽くなる傾向があるようで、ネジはきっちり締め込んだ方が無難だと思う。
音楽鑑賞シチュエーションなら、ジャンルを問わず改造の恩恵をかなり享受出来ると思う。
筆者の感覚では、例えば、ヴォーカルのいわゆる「サ行の刺さり」は随分緩和されたし、参考のため敢えて極端な例ばかり並べると、ハープのグリッサンドは粒立ちよく華麗に聴こえ、低弦やティンパニ、チューバ、超高域のピッコロなども膨らみや伸びが改善して多少リアル感が出るようになった。古楽器を用いたバロックやミニマル・ミュージック系の小編成の室内アンサンブル・合唱物はキレを増して透明感や風通しが向上し、オペラ・リートでは男声女声いずれの声域でもヴォリュームとディテールの両面で驚くほど生々しくなった。
しかし、筆者の接続環境だと(とりわけ高温多湿期は)、78回転SPやモノといった古い年代の音源や劣悪貧弱なライヴ録音では気にならないせよ、相変わらず分厚い管弦楽のトゥッティは飽和して鳴らし切れず、ソロでも弦四でもオケでも主線の弦の音色は致命的にデッドで、やはりダメダメのままであった(ちなみに、管系はホルンを除いてブラスもウィンドも元気よく、改造前後問わず得意のようだ―※筆者は管楽器ジャズでの音色の色艶をよく解しそれを堪能するといった聴き方を身に付けていない無粋な人間であるのでその点は注意されたい)。
さらに、改造前と同音量で使用したとき、恐らく低域が出るようになった分だけ欲も出るのだろうが、ボワつき感や低音ハーモニーの分解能にも一層の不満を覚えた(バス・ドラや男声バス合唱の重低音など、残念ながら、500シリーズの"限界"を感じてしまう)。ニュアンスとしては、595に対するレビューで見かける「締まらない低音」という表現が的を射ている。改造後は音量を上げてこれを少し緩和してやる必要があると感じた。
結論として、繰り返しになるが、その価格に比してオリジナル555は優れて映像メディア視聴寄り(オペラ、バレエDVD/BDは留保付き)に完成度の高いモデルである。そのため、使用スタイルが効果音満載の映像メインなら、上記のような改造はその副作用によって却って"面白さ"を削ぐだけとなることも十分に考えられる。
また、改造後は確かに「ヴォーカルに強い、多少は純音楽寄りのチューニング」になるものの、だからといって500シリーズの持つ個性や方向性そのものまで変わるわけではない。例えば、大編成オケ物・合唱物での良好な音分離やダイナミクスをリアルに再生したい、コロラトゥーラ唱法やドラマティック・ソプラノのハイE音の絶叫、ブラス群の音割れする程の咆哮を余裕ある刺さらない音で楽しみたい、原音により忠実な弦の輝きやピアノの打鍵の繊細なニュアンス、パイプ・オルガンの倍音の伸びや世界の有名ホールの残響感の差異にこだわりたい…等々のリスナーで、現状555の音質傾向に既に難を感じているなら、この程度の小手先の改造を試みても、加えて、セッティングを多少イジったとしても、結局、不満の完全解消には至らないように思う。
いずれにせよ、500シリーズは、スコアを読みながら仕事や勉強の為に分析的に聴く、といったスタンスに適したモデルではない。555/555改(所詮、US売価$100前後の中級機に過ぎない)で妥協出来ないなら、その場合には一足飛びに上位のHD650やAKG、DENON等の高級モデルの購入を検討すべきかも知れない。
―追記―
555の魅力と購入意義は、あくまで、1万円前後で入手出来る「HD595と比較してのCPの良さ」に尽きる、と思う。交換可能な着脱ケーブル方式に改良され(※)、ドライバーユニットも一新されている
HD558
と価格が大差ないなら、躊躇無く、555でなく後継機の558の方を選ぶべき。そして、同じように558改(=HD598?)を試してみたら良い、と思う。[※=相性次第の面もあるが、ケーブル交換によって生じる音質と性格付けの改善/変化は侮れない。但し、経験から言って、本体価格を上回るようなサード・パーティー製の高額民生用ケーブルに投資するのは本末転倒で下らない、と思う。ケーブル蒐集が趣味でもない限り、初めから、安価で忠実性に秀でたスタジオ用ケーブルを選択した方が賢い]
接続環境:
アース接続済み非メッキ電源タップ →
パイオニア: DV-610AV →
Georg Neumann: RCAケーブル (比較用サブ/アキュフェーズ: L-10G) →
オーディオテクニカ: AT-HA20 →
Sennheiser: HD555/555改[50Ω仕様]
接続技術 | 有線 |
---|---|
特徴 | マイク付き |
付属コンポーネント | ヘッドホン |
対象年齢 | 大人 |
制御タイプ | ノイズキャンセリング |
ケーブルの特徴 | 脱着式 |
商品の重量 | 703 g |
商品モデル番号 | HD555 |
メーカーにより製造中止になりました | いいえ |
カラー | ブラック |
コネクタ | コード |
メディア形式 | 不明な形式 |
OS | not_machine_specific |