リュック・ベッソンといえば大ヒット作ウィリス主演のフィフス・エレメント
を思い出すが、実はこの人は当時映画の撮影現場にゲリラ的に進入
してはいつのまにかスタッフになりすます、という離れ業で映画屋にな
ったというとんでない特技があったわけだが、本作品は監督の処女長
篇作なのだ。
パリの古工場を無許可で借用した廃墟の映像に注目。文明の崩壊した
世界で、ある男が原始的なサバイバル戦の末に廃墟の帝王を倒すま
でを描いている。ノドの障害で全編セリフはないが、唯一の例外はノンだ。
とにかくセリフはないし、モノクロ調で、さらにシネマスコープで描かれた
荒廃とした映像は心理的な静寂感を伴って不可思議な魅力を演出している。
そしてどこか懐かしい背景と何か新鮮さを匂わす廃墟の雰囲気はたとえば
ブレードランナー、マッドマックス、ニューヨーク1997を彷彿とさせる感じだが、
眼に映る白黒感覚とそこに鳴り響く誇張された効果音はランブルフィッシュ
の雰囲気に似た終末感をともなっていて、いっそう誇大でアナーキーなフリー
ダム的感覚がフレッシュだ。
特筆すべきはセリフを排斥したことが心理的な静謐感やラジカル感をいっそう
高揚している。さらに劇画的に誇張された効果音が、文明の秩序や価値観の
皮膜を除去した、さらけ出した自然の原始を抽出していることだ。アブノーマル
で魅惑的なサウンドがモノクロ映像の異世界の匂いを鮮烈に描いている。