当作品の市松、「富嶽百景殺し旅」の唐十郎、「太陽にほえろ!」のスコッチ刑事を代表として、クールなキャラを演じる事の多かった沖雅也。単純な私は「市松=沖雅也」という風に作品上のキャラと俳優のキャラを同一視していましたが、ものの本によれば素顔の沖雅也はこれらクールなキャラ達とは正反対の「俺たちは天使だ」の麻生キャップのような方だったそうです。ここまで正反対のキャラを、違和感なく見事に演じ切れる才能には、目を見晴らされます。つくづく、惜しい人を早く亡くしたなと思わざるをえません。
市松のクールな雰囲気を醸し出している主な要因として、私は表情に注目したいと思います。全話を通して、市松という男は感情を表に出す事は殆どありません。第1話と最終話を除くと、皆無と言える程の少なさです。必要最低限の瞬きすら行わない事で、端正な顔立ちがあたかも能面を思わせる無表情さを作り出し、さらに抑揚のない喋り方との相乗効果でこの世のものとも思われない、一種独特の幽玄美すら漂わせる雰囲気を醸し出す事に成功していると思われます。