このドラマを見た後で、映画の「人間の証明」を深夜放送で見ました。
昔の角川映画らしく、大袈裟でお金をたくさん使ったあまり意味のない映画に仕上がっていました。
それを考えると、このドラマは本当に奇跡的に良いです。というか、素晴らしいです。
人間というものを全く信用していない棟居刑事と郡恭子。この似たもの同士が、それぞれに紆余曲折を経て、最後取調室に辿りつくのですが
二人の対決、ドラマ史に残るやり取りでした。いままで、凡百のサスペンスドラマの犯人自白シーンを見てきましたが(崖の上が多い)
ここまで緊迫した、そしてエモーショナルなものは見たことがありません。
決して激しかったり、声を荒げたりしているわけではないのに、二人の攻防はまさしく戦いでした。
何がすごいって、郡恭子が最後まで一切反省も後悔もしていないところが凄いんです。
じゃあ何故落ちたのか?
棟居は、この女のかすかに残る人間性の名残りのようなものを信じていました。だから、最後の最後には、厳しさではなく、優しさで攻めたのです。
それは、殺された彼女の息子の心を語ることでした。その瞬間、女は目の前に、自らが殺した息子を見たのです。
そして、一瞬ではありましたが、自分が人間であることを思い出してしまったのです。
隙を突かれたというところでしょうか。
この難しいシークエンスを、竹野内豊はじっくりと、彼の持ち味である優しさあふれる演技で見せ
松坂慶子は滅多に演じない役柄ながら、鋭い冷たさを全身から滲ませて演じていました。
時間延長も無く、地味に終わったという印象のあった本放送ですが、
このただ犯人を自白させるためだけの45分間は、大変濃密なものでした。
無理に薄めたエピソードを入れて、間延びするより良かったと思います。
ここまでよく出来たサスペンスは、もう出来ないかもしれません。
視聴率狙いのキャラ立ちしたようなドラマしか作れない今の日本では。
ちなみに、DVDには、テレビになかったシーンがいくつか入っています。
ちょっと嬉しいかも。