シュトロハイムの最高傑作は「結婚行進曲」「メリィ・ウィドウ」辺りだろうけど、この作品もまたシュトロハイムをシュトロハイムたらしめる凄い映画だ。
4時間版の完全な「グリード」こそ真の「グリード」だが、それを今拝めない以上、この「グリード」が現時点におけるシュトロハイムの「グリード」なのであろう。
シュトロハイムが「愚なる妻」に続いて完成させた傑作。
前作は大ヒットするも会社が傾くほどの予算で「会社を潰す気か!」とユニバーサルから追い出されたが、シュトロハイムの実力を知っていたMGMが彼に救いの手を差し伸べる。
「君の好きな物を作れ」。ああ、そんな事言っちゃうから・・・(笑)
その「蜘蛛の糸」とも言うべき手助けは、MGMすら傾けるほどの巨大な「命綱」に膨張する。
「愚なる妻」は実在の巨大カジノを再現してしまうなど美術・技術・予算をふんだんに使った贅沢な美術で魅了してくれたが、本作はデス・バレーで文字通り死者まで出した酷暑でのロケ。
冒頭は炭鉱夫の主人公マクティーグが仕事を辞める経緯を描く。「金は要らない。歯医者の弟子になればそれで食っていけるだろう」。
一見欲の無い男だが、何も知らない野暮な主人公は、一度欲望に心を蝕まれたらどうなるかも知らなかった。
トリーナこれといった美人じゃない。が、何処か肉欲を掻き立てるようなオーラがこの女にはある。
トリーナの心がマクティーグを狂わせていく。
マーカスもまたトリーナをそれほど愛していなかった。いや、友人とは言え簡単に自分の女を他人に譲っちまうような軽薄な男だ。
トリーナも金さえあれば良いという女。肉欲だけが目的の男、金だけが目的の女。
じっくり二人の男女の邂逅を描き、結婚式の場面まで実に幸せなムードで進行してさえいるのに。
金貨の輝きは女心も男心も狂わせる。金の弾ける音が聞こえてきそうだぜ。二人の間にはやがて亀裂がはしる・・・。
野暮なマクティーグの純粋さは、そのまま憎しみに変貌していく。
一方、今まで無責任に金も女も放り出したマーカス。
「女もやっちまって、せっかく当てた大金もあんな奴らにくれちまって。何で俺はこんな事してんだ?」てな具合に後悔は嫉妬、憎悪へと変わる。
この心理描写が実に怖い。
グリード(強欲)にとり憑かれた人間が如何に身を滅ぼしていくか。ラストシーンの荒野の情景は絶望的なまでに美しい。
気がついたら、もう自分には何も残っていない・・・あるのは土と汗と血にまみれた己のみ。
「どうしてこうなっちまったんだろう」。