一聴してそっけないとたぶん感じられるベートーヴェン。よって、周知の通り、この演奏の評論家的な評価は決して高くはない。しかし、ちょっと待って欲しい。
ヴァイオリンという楽器は、いくらでも表情の付けられる楽器である。そして女流演奏家が多いこともあって、そのような情緒的な演奏が歓迎される傾向にもある(いわゆる「泣きのヴァイオリン」というやつだ)。
ヴァイオリン奏者にとって、この「表情づけ」をしない、という演奏法を取ることはかなり勇気がいる。つまり、「音楽自体をして語らしめる」ということになるので、質の低い音楽の場合はそのつまらなさを全面に出すことになるし、また逆に万全のテクニックを要求されることになるからである。
ハイフェッツは「余計な表情付けをしないほうが美しい」という洗練された美意識を持つ演奏家なので、ある意味リスナーを選ぶ。だから、はっきり言って、この演奏を物足りない、と感じる方は音楽鑑賞に関しての修業不足なのである。テンポを動かしたり過剰なビブラートをかけないと「キレイに」「情熱的に」聴こえない、というのでは、ベートーヴェンの真価は伝わらない。
カップリングのメンデルスゾーンに関しては、逆に曲自体が表情過剰なのでハイフェッツの抑制されたスタイルとの相性がよい。まったく同じことがチャイコフスキーに関しても当てはまる。