このところ,R&B通には嬉しいカムバックが続いている。アニタ・ベイカーやアリソン・ウィリアムスなどのベテラン勢をはじめ,中堅どころでは,ラサーン・パターソンにアディナ・ハワード。そして,今,リンデン・デヴィッド・ホールの5年ぶりの3rdアルバムが届いた。
R&Bならではのビタースウィートでしなやかな身のこなしが彼の持ち味。子供の頃は「どうして大人はコーヒーみたいなあんな苦いものを飲めるんだろう」と思っても,いつしか一杯のコーヒーに安堵を求めるようになるように,決して万人受けするスタイルではないが,奥が深くて味わい深いサウンド。いわゆる「渋い」っていうヤツだ。
本作でもその辺りは健在で,レイトナイト向けのジャジーで落ち着いたサウンドの「Don’t Hide Your Heart」などはまさに彼らしいビタースウィートな一品。少しメロウなところでは,流れるように軽妙な「Stay Faithful」や,ニヒルな雰囲気の「Day Off」あたりがいい。70年代ソウルを想起させるアコースティックで穏やかなバラード「Blessings」も彼が歌うとソウルフルで味わい深い。甘美なフレーズをループさせながら幻想的に漂う「(If you Ain't) Comfortable)」なんてユニークな曲も。
地味だが,R&Bの醍醐味を教えてくれる良質のアルバムだ。