この不思議な名前を持つヒップ・ホップ・グループ、Strange
Fruit Project。日本での知名度は残念ながらかなり低いのですが、
本当にそれがもったいないとしか言いようのない、とにかく
素晴らしい才能を持ったグループです。ジャージでありながら、
しっかりと自分たちのスタイルを持ち、意欲的なトラックを
作り出しているグループなのです。
Strange Fruit Projectはテキサス出身のグループで、活動を
開始したのは90年代後半と、かなりキャリアの長いグループ
なのです。しかし、音はベテランの落ち着いたものというよりも、
若い、前へ前へと進むエネルギーが感じられます。洗練されていて、
躍動感があって、とにかく聴いていて楽しいアルバムを作って
くれます。メンバーはSymbolyc One (S1)、Myth、そしてMyoneの
3人です。
今回紹介するのは2004年にリリースされたStrange Fruit
Projectの2ndアルバム、『Soul Travellin』です。もうジャジーで
ハートウォーミングな名曲が詰まった、最高のアルバムです。
まずは2曲目の『Luv Is』。もうMCの声を聴いた瞬間に、“この
アルバム絶対いい!”と確信しましたね。なんていうんでしょう、
センスが良くてソウルのある曲をやってそうな声なんですよね。
上手く説明できないのですが、膨大な量のヒップ・ホップを聴いて
きて、なんとなくそんな感じがするのです。ジャケ買いで、
ジャケットを見てなんとなく分かる感覚に近いですね。ソウルフルで、
少し翳りのある女性ヴォーカルと、硬いリズムが印象的な曲です。
こういった硬いビートは大好きです。ライムは奇をてらうところの
ない、ストレイト・アヘッドなもので、ジャストにはまっていく
感じが気持ちいいです。
続く『The Dotted Line』は骨太なトラックに、これまた男気
溢れるライムが乗るシビレる一曲です。MCの声の違いが絶妙で、
単調になりがちな曲調を引き締めています。
『Cloud Nine』は一転してジャジーでドリーミーな曲に仕上がって
います。音空間を上手く使ったプロデュース、ストレンジな音や
挿し込まれるつぶやき、アカペラ部分など、随所に詰め込まれた
アイデアが楽しい1曲です。
『Move』もStrange Fruit Projectらしい安定したMCと、隙間の
多い音にセンスの良い演奏が絡む佳曲です。この曲ではピアノや
ビブラフォンがいい仕事してますね。さらに、スクラッチが入って
くるのが新鮮です。
セクシーなソウルのような曲調が珍しい『Honey』。サビで
現れる男性ヴォーカルもエロティックで、他の曲とは違った魅力を
放っています。ライムも角が取れているとでもいうのでしょうか、
骨太な感じではなく、曲調に合ったものになっています。こういった
スキルもさすがですね。
一転して『Oh Yeah』は弾むようなリズムになっており、ライムも
合わせてキレの良いものにシフトしています。『Honey』でも
書きましたが、こうやってライムを曲に合わせて使い分けることが
できるというのは、なかなかできないことです。バックで繰り返し
使われる“Oh Yeah”というサンプリングと、ヘヴィーなビートが
この曲の特徴で、ノリが良く、しかし、ただ突っ走っていくだけには
ならない、不思議な揺らぎを生んでいます。
『Recreate』はゆったりとしたソウル・ナンバーで、中盤にMCが
登場するまでは、女性ヴォーカルのみの歌ものです。あまりに
艶かしいヴォーカルと、繊細で艶やかなギターの音色が美し過ぎる、
大人のジャジー・ヒップ・ホップとでもいうべきナンバーです。
アルバム・タイトルと同名の『Soul Travellin』は、音数を
抑えたトラックの上を、MCが縦横無尽に駆け巡る、MCにスポット
ライトを当てたナンバーです。ジャストにびしっと決まるMCは
さすがですが、特に出だし、一息でかなりの長いバースを
ライミングしきるところは鳥肌ものです。
そして最後の曲、『Long Way』は私がアルバムで最も好きな
曲です。この曲を聴くと、Lightheadを思い出します。Lightheadも
ジャジー・ヒップ・ホップの枠に収まらない、本当に素晴らしい
ヒップ・ホップをやっていて、それがStrange Fruit Projectと
かなり重なるのです。ライムの声質も似ていると思います。
Lightheadの高い評価と比較すると、Strange Fruit Projectへの
評価は低過ぎるとしか言いようがありません。中盤息子にライムを
させるやりとりがあり、それに続いて始まる部分がとにかく
素晴らしいです。父親が息子への愛を心を込めてライミング
していく、聴いていて胸が熱くなる曲です。私にも2人の息子が
いるので、その内容が自分と重なるので、余計に感情移入して
しまいます。
とにかく、このアルバムを聴き逃しているのはもったいないとしか
言いようがありません。ヒップ・ホップを真剣に好きなヘッズなら、
絶対に聴いておくべき一枚だと断言できます。Strange Fruit
Projectの作品が一枚でも多く売れて、彼らがその恩恵を受けることが
できればと思います。