Lampの2005年の3rd。
まず特筆すべきなのはtrack7「冷たい夜の光」。サーフズ・アップ期のビーチボーイズやビートルズのアビー・ロードの「サン・キング」を聴いた時の感覚に近いものを感じます。とにかくものすごい名曲。涙しか出ない。ヴァースからまるで彷徨うように複雑に変化するコード進行の中でブリッジ前で一瞬現れるシンプルなF/Gのコードが次の展開へと誘い、まさに闇の中で光が差し込んで視界が開けるような感動に襲われます。そのあとのブリッジの部分は特に胸が苦しくなります。コーラスワークもとにかく美しい。なんなんだこの曲は。
染谷さんもtrack2、6などで才能を発揮していますが、このアルバムでは何と言ってもtrack3、7で永井さんがとんでもない才能を発揮しています。永井さんほど良いラブソングを書くソングライターは今の日本にもいないと言っていいほどでしょう。ブライアン・ウィルスンに匹敵するほどです。
染谷さん作のtrack1は、冒頭〜サビ前までのCmajorからサビ前でFm7→B♭7を経て、サビでE♭majorに転調するのが良いですね。C majorの純朴な響きからE♭majorのより重厚な響きに変わります。サビ前までの調が最もシンプルなC majorであることによってよりE♭の調の響きが引き立っています。この手法はアルバム「東京ユウトピア通信」収録の「君とぼくのさよならに」でも使われています。また、サビ終わりのクラヴィネットが良いです。
染谷さん作のtrack2は、ベースの動きやシンセ、クラヴィネットの音色、グルーヴが良いですね。サビ直前に入るストリングスの動きが良いです。大好きな曲です。
track3は永井さんのメロディーメイカーとしての才能が発揮されている名曲ですが、この曲の2番のヴァース部分は歌なしで展開されます。こういった手法はその後のアルバム「ゆめ」収録の「ため息の行方」や「さち子」の他、アルバム「東京ユウトピア通信」収録の「君が泣くなら」などLampの他の楽曲でもよくみられ、彼らが歌だけでなく曲全体のサウンドとして聴かれる音楽を目指している感じが見受けられます。大サビからの転調が素晴らしいです。
染谷さん作のtrack4では榊原さんのアコーディオン以外にマリンバやマンドリンを使用したりと楽器の使い方が素晴らしいです。このアレンジは菅井協太さんでしょうか。最後にAm7ではなく、AM7にいくのが良いですね。
染谷さん作のtrack6は、ギターの1.2.3弦のみで演奏される高音のカッティングが美しい名曲ですが、この曲のサビの2つ目のコードE♭79-5が度肝を抜かれます。ヴァースからコーラスへの転調が見事です。サビの最後のDマイナーペンタトニックのメロディーが良いです。全体的にエレピの動きがすごく良いですね。曲の最後のフェイドアウト部分のコーラスワーク、内声の動きまで凝っています。
アルバムの最後を飾るtrack8では曲の最後でドラムがボサノヴァ調のリムショットに変化するのが良いですね。フェイドアウト部分ではtrack1の冒頭のフレーズが短3度下で再び顔を出します。こういった手法はミニアルバム「八月の詩情」などでもみられ、さすがとしか言いようがないです。またこのフレーズの最も下がった「ラ♭」の音がベースの「ソ」と当たる部分がとても心地良いです。ここは意図的なのでしょうか。
Lampの他のアルバムではもっとボサノヴァ色の強いものが多いですが、それらに比べこのアルバムは全体的にベースの動きやクラヴィネットのグルーヴなど、ソウル色の強いアルバムだと思います。スティーヴィー・ワンダーやジャクソン5、マーヴィン・ゲイが好きな人なんかはしっくりくるかもしれません。
全体的に榊原さんのフルートが良い味を出しています。ブラスセクションもtrack1.2.5で目立っています。アルバム「ゆめ」での北園みなみさんのブラスアレンジに比べればさすがに劣りますが、それでも十分良いです。
そして何よりこのアルバムは、Lampのアルバムの中で最もポップでキャッチーなアルバムと言えるかもしれません。
ともかく、初期の中では間違いなくLampの最高傑作でしょう。夏ではなく、秋から冬かけて、または春に聴きたくなるようなアルバムです。おすすめです。