ジャン=ポール・ラプノーは、知る人ぞ知るフランス映画の巨匠。
徹底した完璧主義を貫くため作品は少ない。記憶にあるのはジェラール・ドパルデュー主演の「シラノ・ド・ベルジュラック」、カトリーヌ・ドヌーブ主演の「うず潮」、それと「プロヴァンスの恋」くらい。
最新作「ボン・ボヤ―ジュ」は素晴らしい作品です。音楽良し、映像良し。ストーリイはスリルに満ち息をつかせません。ナチス・ドイツによるパリ占領が刻々迫る中、フランス政府とパリ市民はボルドーに脱出を試みます。政治家はここで、降伏か、和戦か、抗戦かを決定しなければなりません。その混乱と喧騒のなかに、原爆製造の化学材料「重水素」を何とかして国外に搬出せんとする科学者グループがおり、これを追跡するドイツ・スパイがいます。
フランス映画といえば味わい深いものの、こじんまりした作品が多いのですが、本編はスケール大きく、アクションの連続です。そうは言ってもそこはフランス映画、バカな美人女優に振り回される内務大臣?がいて(ジェラール・ドパルデューがいい味を出している)、彼女にぞっこんの若い作家(グレゴリ・デランジェール、ERのカーター先生に似ている)がいて、彼女の身勝手に振り回されつつ画面は急展開します。イザベル・アジャーニ演ずる女優さんは、かわいくてあどけないのだけれど周囲の危機的状況などまるで無頓着に自己保身のみをしっかり追求します。
印象的なシーンが二つ出てきます。人っけの無くなったパリの市街をドイツの軍用車が列をなして走り抜けます。一方で避難の群衆で溢れかえったボルドー大橋の大写し。
結末も後味の良いもので、監督はサスペンス・タッチの良質な娯楽作品を提供しようとしています。フランス映画の底力を見せつける傑作です。