日本の妖怪ヘヴィメタルバンド、陰陽座が2005年にリリースした6thアルバムです。
一言で形容しがたい、多彩な面を持つアルバムです。いかにもなメタル曲の割合が減り(というかギターが軽い?)、幅広い意味でのロック的な曲が目立ちます。「歌謡度」という点で前作と同じような方向性。しかし陰陽座歴代最強のメロスピチューンやトータル20分以上に及ぶ組曲などディープな要素もこれはこれで濃すぎる。日本人らしい「淡さ」の表現と、ストレートなメタルバンドとしての感性。聴きやすさ/入りやすさと濃厚なドラマ性が1枚に両立している密度の濃いアルバムと言えるでしょう。
#1 "靂 (かみのふるめき) "はミドルチューンのハードロックでアルバムの始まりとしては意表を突かれますが、#2 "龍の雲を得る如し" は疾走感のある王道アップテンポチューン。イントロのツインギターがさっそくかっこいいですし、サビの飛翔感もいいですね。1曲目で龍が目覚め、この曲で天へと昇っていく…というストーリーらしいです。
#4 "甲賀忍法帖" は陰陽座の代表曲と言えるでしょう。陰陽座を知らない、あるいは音楽そのものに興味がない人でも「バジリスク」の主題歌をやっているバンドだと教えたら「あーあれかー」、となる高い知名度を持つ曲です。オープニングの笛からして雰囲気がありますし、キャッチーで耳に残るメロディ。やはりこういう、一般層にも馴染みのある代表曲があるというのは強みですね。
#5 "不知火" は前作の "煙々羅" に似た雰囲気の曲。こちらはテンポが速めですがこの淡い柔らかさが共通しているなと感じました。実はBPMが210前後と陰陽座でも最速の部類。これに匹敵するのは恐らく "窮奇" ぐらいなのでは。しかしこちらはメロディがゆったりしており心地よい浮遊感に浸れます。
#7 "月花" はメタルというよりJ-Rock風のアップテンポ曲。瞬火さんの歌い方がムーディーすぎて、それこそ昭和のデュエット歌謡みたいな雰囲気もちょっとある気がします。5曲目やこの曲が、本作のメタルを超えた幅広さに寄与しているのは確かでしょう。
#8 "蛟龍 (みずち) の巫女" は個人的に陰陽座最強の疾走メロスピチューン。陰陽座全部の中でこの曲が一番好き。作曲は黒猫さん。1stの "陰陽師" も彼女の曲ですが、黒猫さんの作る疾走チューンに外れはないですね。もうイントロだけで名曲の予感ですし、黒猫さんの歌唱もまさに絶唱。サビ部分のバッキングのコーラスもまたいいのですよ。ちなみに「蛟龍」とは龍の子のことで、ラストの「此の星を喰らい廻る生命よ」という歌詞では「なるたる」を思い起こさせました。世代がばれる。
ここからは11曲目までは総計23分に及ぶ組曲「義経」。#9 "悪忌判官" はストレートなアップテンポで、キャッチーさ重視の曲です。ヴォーカルはほぼ瞬火さんですが、アルバムごとに表現力を上げていく歌唱力が遺憾なく発揮されています。ソロパートのタッピングからツインのハモリに至る流れもいいですね。当時はNHKの大河ドラマでちょうど「義経」をやっていたというタイミングもあり、結構話題になっていた記憶があります。
9曲目からシームレスに繋がる#10 "夢魔炎上" は前の曲のテンポ感そのままにバスドラで拍を刻み、大きくテンポダウンしてゆったりとした雰囲気に。黒猫さんのドスの効いた歌声が入ります。メロディ・リフともに展開が豊富で濃すぎるドラマ性。重く暗い曲調ながら美しく、特に3:50あたりからのソロパートはもうOpethです(誉め言葉)。中盤のセリフパートにおける2人の高い演技力も聴きどころ。
#11 "来世邂逅" は黒猫さんが切々と歌い上げるバラード。壮大な組曲の締めとしてドラマティックなんですが、なんか2時間ドラマのエンディングっぽい雰囲気もあり、断崖絶壁の日本海をバックにエンドロールが流れそうです。
これまでは日本の妖怪や伝承をテーマにしてきた陰陽座が、歴史上の人物をテーマ曲を作った新境地。音楽面ではより普遍的なメタル/ロックに近づいており、いわば正統派な曲と陰陽座ワールド全開の曲という2極化した曲で構成されたアルバムと言えるでしょう。なのにそれでアルバム通して整合感が取れているというのはやはりセンスを感じます。