通常版未プレイ、岡崎女史を余り知らない者からのレビューと前置き。
その上で、稀に見る見事な物語であった。
切ないまでに幸せを求めながら、それ故に藻掻き苦しむ少年少女たち。
二人の間で揺れる誠実で残酷な恋心という、それ単体でも甘苦い恋物語を
成立させているのに、そこに加えて「嘘と本当と幸せ」という恋だけに
留まらない人生の物語を成立させているのは見事だ。
叙述トリックめいた構成や音韻を踏む会話など評価点は多いが、
トリックを見抜こうと物語に接するとむしろそのテーマ性を見失うだろう。
幸せの為の嘘、自己欺瞞と自己嫌悪。程度の差はあれ、誰しもが持つ
そんな経験があればあるほど、この物語は心に苦く切なく響く。
(少なくとも、思春期の子供では自己に照らした理解は不可能)
その苦さを受け付けられない人も確かにいるだろうし、必ずしも万人に
薦められる物語ではないのだが、一方で誰もに体験して欲しいと矛盾を
思わされてしまう、そんな物語だ。
また、音楽とイラストがそんな物語と実にバランスがいい。
前述のように岡崎女史を私はあまり知らないが、音楽があって物語ができたかの
ような一体感は見事。今時ありがちな取ってつけたような歌詞ではないため、
物語と等しく風化しないと思う。
また絵柄についても同様で、いわゆる今風のギャルゲ絵を追った画ではなく、
逆に数年後でも古びることがない。この三位一体で色褪せない造りは見事だ。
なお演奏ゲーム自体はそこそこ楽しめたが、正直本編中の演奏は後半全て
スキップで対応した(ただしそれで対応できるのは評価)。
また最終シナリオは若干蛇足の感があり、「本編」の余韻を感じている間は
避けた方が無難だ。また良質の会話は、逆に4行ギャルゲ表示形式では
一部理解しづらい部分もあった。
最後に、現在愛蔵・通常版がほぼ同価格のためこちらを選択した事も付記。
正直、通常版があればこちらは不要だろう。本質は、その物語なのだから。