1987年にヒットさせた「マルサの女」は序章に過ぎず、本当に撮りたかった本命テーマが翌88年公開の第二弾「マルサの女2」だったと伊丹十三監督自身が語っており、なるほど社会構造の最も深い闇が描かれている。
政治家・商社・銀行・ゼネコン等の綺麗な表世界と、新興教団・地上げ屋・暴力団の汚れた裏社会が結託してバブルを煽った実態を、脱税を追うマルサ(国税庁査察部)を通して白日の元に晒した勇気ある傑作だ。
しかも市民との直接交渉で矢面に立つ裏社会の方が“トカゲの尻尾”であり、それらの実態に関して知らぬ存ぜぬ顔の表社会の方が真の巨悪とするメッセージはかなり強烈だ。
無税扱いの宗教法人を隠れ蓑に、地上げと脱税とマネーロンダリングによる裏金作りに奔走する金の亡者を三國連太郎が熱演している。
F・コッポラ監督がバチカンと産業界の癒着スキャンダルを描いた「ゴッドファーザーⅢ」が90年なので、本作のテーマ設定はまさに先駆的。伊丹監督でなければ実現しなかったろうし、表の大企業を向こうに回して制作・配給を許可した東宝の英断だろう。
途中、記事化を材料に地上げ屋と立ち退き料を交渉する写真週刊誌カメラマンや、不動産売値の吊り上げを画策する大学教授等も描かれ、至るところに毒が効いている。
本作は第一作よりエンターテイメント性が強く大味な印象を受け、宮本信子の行動も内定活動と言うよりもスパイ映画の様だ。それでも第一作でのブティックホテル経営の山崎努が語る「脱税者の言い分」に当たる事情は本作でもしっかり描かれていて抜かりはない。
国民に奉仕するには何かと金の掛かる政治家、散財する教祖妻を持つ教団代表の夫、借金の肩に娘を差し出す父親、小遣い銭で名義貸しする僧侶、都市再開発での必要悪を自認する地上げ屋、宗教法人を所管する都道府県や文科省の人手不足、社会規範より組織内の忠義を重んじる便利な男達と言ったディテールは普通の映画ではなかなか描けない。監督が伝えたかったエピソードが余りに多く、密度が高過ぎるのでバタバタした感はあるが、かなり実態を掘りさげた濃厚な内容なのだ。
役者陣では、安定した津川正彦と大地康雄のコンビに加え、大蔵省(現財務省)からの出向者で東大キャリア益岡徹の奮闘が新鮮。小松方正や上田耕一、不破万作の名悪役振りや、柴田美保子や洞口依子の体を張った演技、岡本伸人の惚けた信者らが泥臭い本作を支えている。
「マルサの女」同様、此方も妖艶な場面が多くて女性や学生には正直お勧めしにくいが、宗教法人の信者になる前に、また自社がブラック案件を手掛ける前に、組織の運営実態をちゃんと見極めるべき社会人の見識を問われている現実を学べる秀作。
95年のオウム心理教による地下鉄サリン事件の3年後に公開された伊丹十三氏渾身の邦画史に残る問題作は、風化させるには余りに惜しい。迫力満点のBlu-rayにて是非一度ご賞味あれ。