この人を見ていると、天は何物を与えたんだろう? と思ってしまう。アメリカのバークリー音楽大学などに学び、音楽的才能はピカイチ。作曲はもちろん、ピアノもギターもヴァイオリンもお手のものだし、演技もできるし、背も高くて顔も良くて、たぶん頭だってすごくいいと思う。さらに、DVDのミュージックヴィデオを見れば分かるが、体もバキバキだ。もちろん努力の結果、というのもあるだろうが、ここまでくると彼我の差にため息しか出ない。
本CDはその王力宏の才能を余すところなく伝える1枚、といっても過言ではない。当初、台湾では、かつての小沢健二っぽいおしゃれな育ちのいいシンガーソングライターとして頭角を現し、日本ではそのイメージを踏襲しつつラヴソング中心のイケメン歌手路線でデビューした人だけれど、そんなありきたりの既存の型になどイージーにはめることはできない、彼の音楽性の多彩さ、そして表現力の多才さを、ひしひしと感じさせるアルバムに仕上がっていると思う。
と、ずいぶん偉そうなことを書いたが、従来の聴かせ系リーホンにすっかり耳が馴染んでいた僕は、最初このアジアンテイストをフィーチャーしたヒップホップ色の強い路線に眉をひそめて、しばらく彼から遠ざかっていた人間の一人である(そんな人けっこういたと思う)。それが何年かぶりにあらためてちゃんと聴いてみると、わるくないのである。食わずぎらいだったのである。聴かせ系もしっかり入っていて、従来のファンも失望させない気配りなのである。悔しいが(?)またまたリーホンにやられてしまった、という感じだ。
DVDを見ると、さすがに10年くらいたっているので、少々古びたところはあったが、それは映像の中に出てくる昔の携帯電話だったりストーリー仕立てのいかにもC-POPらしい展開だったりで、音楽的にはまったく古臭さなど感じさせない。今、台湾には単なるお仕着せの楽曲を歌うだけではない、作詞作曲やプロデュースも自ら手がけるというようなアーティストが大勢いるけれど、1995年に19歳でデビューした王力宏という才人の拓いた道がなければ、その後の台湾音楽界の百花繚乱はなかったのではないか、という気さえしている。