映画版と舞台版の両方を見ることができるので、高額な舞台版のみ購入するようならツインパックがよいと思います。
舞台版は、新感線さんの舞台の特徴である、お笑い、シリアスでケレンのある展開の両輪で進んでいきます。映画版はお笑いを抜き、その世界観の演出に力を入れています。同じようでいて全く違うものとなっていますので、どちらも楽しめました。
もともと山田風太郎さんの忍者小説と、それを映画化した「魔界転生」や「伊賀忍法帖」や「SHINOBI」が好きでしたので、大いにはまりました。
ここに、歌舞伎役者である市川染五郎さんの、鍛錬を積んだ芸(所作、表情、発声、言い回し、立ち回り、殺陣、唄、舞など)がぴったりとはまり、「病葉出門」というスーパーヒーローがとにかくカッコいいです。抜け感がとにかく洒落ていて粋です。
映画版はセットとCGをを活用したケレンがたまりません。実在する江戸時代の歌舞伎小屋である「こんぴら歌舞伎」でおなじみの金丸座を実際に使用したシーンの数々が素晴らしいです。こちらの「闇のつばき」を演じる宮沢りえさんは、阿修羅になっても守ってあげたい華奢なヒロインとして、その美貌を最大限に活かされていて、仏の阿修羅です(滅びの道が鬼の救済となってはいますが)。樋口可南子さんの美惨と渡部篤郎さんの邪空の大人な恋、二番手な位置づけもピッタリとはまり、周りを四世鶴屋南北の小日向文世さんが締めます。
舞台版はなんといっても、近藤芳正さんの阿倍晴明と橋本じゅんさんの抜刀斎の絡みが面白いでしょう。また、市川染五郎さんの迫力といったらやはり舞台版です。そして、天海祐希さん演じる「闇のつばき」は、いなせな姐さんで、阿修羅化したあとの迫力がとにかく素晴らしい。こちらは鬼の王の阿修羅です。壮絶で美しすぎます。
舞台版を見ますと、道鏡という鬼を封じるアイテムが出てきて、「鬼は自分の姿を呪う」ため、阿修羅となったつばきが何故出雲を怨み呪うのかが少しわかりやすいです。また伊原剛志さんの邪空はとにかく壮絶。もとJACですから殺陣も素晴らしい。
この物語のベースにありますのは四世鶴屋南北の「東海道四谷怪談」です。出門の決めゼリフ、「首が飛んでも動いて見せらあ」は民谷伊右衛門のセリフ。
初演は看板女優である白石恭子さんの退団公演との事で、せつない悲恋の物語の結末として、出門の手によってヒロインはあちら側に行ってしまいます。
印象に残る一句、「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ 」崇徳院の一句です。この句を詠んでから16年後に「保元の乱」に敗れた崇徳院は、金丸座のある香川県に流され、最後は鬼のような風体となりました。まさに阿修羅のようです。贈られた名は「祟る」「徳=悲しい最期を遂げた天皇」なのです。この句もまた出門とつばきの悲恋を彩っています。