冷酷で狡猾それでいて美しい、色悪の典型のような天知茂の波島中尉が魅力的です。中川信夫監督は、天知茂をとても愛していたそうで、この映画でも女優より天知さんを美しく撮るように心を砕いていたように思えます。モノクロならではの陰影のつけかたで、彼の色気のある横目や、秀でた鼻の美しい横顔を撮っています。華奢で体温まで低そうな体型と、爬虫類のような冷たい眼差しに魅了されます。ご本人は、青春映画の二枚目役を希望していらしたそうですが、どうしてどうして立派な色悪ぶりです。
部下の妻を奪うために、卑劣な罠をしかけ死に追い込むような、冷血極まりない波島中尉ですが、部下の披露宴の晩に出会ったダンサーの紅蘭(三原葉子)とひと目で恋に落ちます。クラブ上海で紅蘭のショーを見る波島は、妖艶な紅蘭にドキマギして目をそらすところなど、ちょっと可愛く純情な一面も見せています。彼女にたいしては、誠実で温かな愛情を示すところを見ると波島はなかなか複雑な人物のようです。
タイトルにある幽霊ですが、私的には本当の幽霊に悩まされてというよりは、ちょっぴり残ってる良心や道徳意識みたいなものに苦しめられ、ツキがなくなって堕ちて行くという印象です。ラストに憲兵達に追い詰められて、額から血を流す場面など非常に色気があり、この人は痛みや苦悩に耐える役をやらせると、実に色気がありますね。
30代にはいると、途端に強面の鋭い顔つきになる天知さんの、その直前の色男時代が拝める貴重な映画では。久保菜穂子さんや三原葉子さんも大変美しく、特に三原葉子さんは本当にナイスバディーで、同性が見てもホレボレします。でも、この時代って脇のお手入れはしないのね。衝撃でした。大映に移籍し看板女優になった万里昌代がセリフのないダンサーで、ちょっとだけ出ています。