シューマンが絶賛したと解説がある
〈Sonate für Klavier Nr.18 'Fantasie' G-Dur D 894 Op.78〉は、
冒頭のsonorityがどのようなものかが、大変重要だと思う。
胸に響いてくるものでないと聴き進められない。
遠い彼方の空から聴こえてくる旋律であり、
そして、その詩情で最後まで弾き通されていなくてはならない。
鈍色の冬空の日の音楽として、私は聴いている。
シューマンの賞賛通り、素晴らしい叙情性とそれ以上の情趣を湛える音楽。
昨日から脳裡に流れてくる曲。
昨年発売されたアルバムセット『テスタメント(遺言)』には、
収載されていない作品。
本ディスクは、アファナシエフ氏自身の著したライナーノーツで、
自作の英語詩と共に、
作曲家シューベルトと作品世界の解釈と併せて鑑賞することが出来る。
アファナシエフ氏の著作を4冊購入し、
3冊を通読。
私が思うに、アファナシエフ氏という芸術家は詩人であり、
ピアノで音楽の核や精髄に在る詩情を表現し、文筆で詩を表現する。
詩集だけでなくエッセイなどでも実は詩を表現していたりすることは、
御本人も前置きしていたりする。
詩歌を詠ずる芸術家が、アファナシエフ氏であり、
「歌曲の王」と呼ばれたシューベルトの作品を、
充分な時間で以て、つまり寛と弾くのは、
聴いていて納得がゆく。
文学に於いては、欧州は勿論、日本の古典や和歌にも造詣が深い。
そして、鑑賞後には、必ず気づきを与えてくれる演奏であり著作なのだ。
音楽の商品紹介や演奏家紹介では、
“天才”を始めとし、“鬼才、巨匠、~の詩人、至高、最高峰”
と謂った形容や呼称が多数使用されるが、
当然、そのような形容も相応しいので、異論はないとはいえ、
肝心の内容が分からず、体感出来なくなる場合もある。
しかし、アファナシエフ氏は、自身の言葉で、そして演奏で、
聴き手に確実に音楽芸術を届け伝える。
極限の感受性で。
ジャッケットは、
ロシア・アヴァンギャルドの画家
カジミール・マレーヴィチКазимир Северинович Малевич作
「白の上の白White on white」。
シューベルトの後期の作品が表現する生から死に到る臨界感覚、
白色が包含する死と恐怖の表象からも論じているが、
このマレーヴィチ「白の上の白」と、
エドガー・アラン・ポー『ナンタッケ島のアーサー・ゴードン・ビムの物語』と共に引用されている。
フランツ・ペーター・シューベルトFranz Peter Schubertの誕生日(1797年1月31日)の翌日に。