フランク・ロイド・ライト、ル・コルビュジエ、ヴァルター・グロピウスと共に、近代建築の四大巨匠と呼ばれる一人、ミース・ファン・デル・ローエ。彼はバルセロナ・チェア等のインテリア・デザインでも有名ですが、本作は活動拠点をドイツからアメリカに移した後の活躍に絞って取り上げています。
最晩年に設計したというガソリンスタンドが風景にひっそり溶け込む佇まいから始まって、柱の無いガラスで覆われたような高層ビル郡、モダン建築が確立される以前の処女作とされる住宅などが、影響を受けたと思しき建築家たちのコメントと共に紹介されます。
それにしても、一時間という短さもあってか、人物伝としても建築解説としても中途半端な食い足りなさが否めません。サウンドトラックに賑やかなジャズのトランペットの即興が使われていますが、目新しい現代的な建築物によってシカゴの街の風景が様変わりしていく躍動感を暗に表現しているだけで、紹介される建築や建築家の本質に果たしてマッチするものだろうかと首を傾げました。
この作品の製作者はどうやらおしゃれなアート・ドキュメンタリーを目指しているのだろうと思いましたが、そのせいかモダニズム建築の表面的なガラスや金属の輝きにばかり気をとられているようです。ミースの提唱したLess is Moreといったデザイン思想に触れられることもないため、上辺だけで深く探求するような姿勢が感じられず、観終わっても心に残るものがありませんでした。
本作のようなドキュメンタリーの映像作品は数少なく、芸術家や建築家の全貌を手っ取り早く理解できることを期待していますが、その一部分すら得るものがなく残念です。