2005年8月ザルツブルク音楽祭のライヴ・レコーディングで、アンナ・ネトレプコが演じるヴィオレッタの歌唱(アリアとデュエット)を抜粋した25曲が収録してありました。その美貌ゆえマリア・カラスの再来かどうかは評価が分かれるところですが、これだけの妖艶さをたたえた美しさとしっかりとした表現力は他のプリマとは一線を画しています。
マリア・カラス同様の幅広い音域をもち、たっぷりとした声質でありながら、コロラチューラ・ソプラノのような表現も巧みですから、希有なプリマであるのは間違いありません。
相手役のローランド・ビリャソン(アルフレード)、トーマス・ハンプソン(ジェルモン)の魅力的で達者な歌声も収録してあります。カルロ・リッツィ指揮のウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏です。
3曲目のアリア「不思議だわ!ああ,たぶんあの方だわ」でのレガート歌唱と効果的なポルタメントが、ヴィオレッタの苦しい心境を上手く表しています。華やかな高音の冴えが彼女の魅力ですが、弱音の響きの美しさも格別でした。
5曲目の「いつでも自由で(花から花へ)」の堂々した歌唱は、彼女のプリマ・ドンナとしての名声を高く世に知らしめた歌唱です。ラストのロングトーンの響きと意気込みは絶品でした。
19曲目の「あなたは約束を守って下さった-あの人を待っているの,待っているの,もう誰も来てくれない!」の深くて味わい深い表現力の幅広さが彼女の優れた点でしょう。このように曲に相応しい歌唱の変化はなかなか歌いこなせないでしょうから。
リーフレットには、林田直樹氏の解説、全曲の歌詞と下位英一氏による対訳が掲載してあり、彼女の舞台写真も数点飾られていました。
林田氏の8ページのコメントを引用します。「姿といい演技といい‐そしてもちろんつややかで透明で正確無比な声といい、ここでのネトレプコはヴィオレッタに最もふさわしい現代最高の“オペラ女優”といっても過言ではない。このCDは、そのエッセンスを楽しむことができる格好の1枚なのである。」とありました。これだけでアルバム内容は理解できるでしょう。プロの解説は実に見事でした。