改築前の文芸座で上映されたソ連ファンタジー映画特集で初めて観た作品。
ソビエト連邦を代表するファンタジー映画作家だった、アレクサンドル・プトゥシコ監督(「新ガリバー」「石の花」「虹の世界のサトコ」、製作・総監督として「魔女伝説ヴィー」)がソ連初のワイドスクリーン、ステレオ音声で撮った超大作です。
キエフと思しき都市に住むスラブ系民族(ほぼ全員金髪碧眼)を脅かすトゥガールがアジア系で、その野蛮な描写は笑えつつもちょっと引っ掛かります。
ちょうどフリッツ・ラング監督「ニーベルンゲン(1924)」に出てくるアッチラ・ザ・フンと似た描写です。
国民的映画ですから、本作を見たアジア系の連邦の子供は複雑な気持ちになったり、学校で苛められたのではないか、と心配になります。
それを別とし、大人が御伽噺、ファンタジーとして割り切れば現在ではとても無理な膨大なエキストラと馬を使った合戦、アナログで撮られたスラブ伝承に現れる豪傑・妖怪達の様子が特撮怪獣ファンには堪りません。
まるでトランプのキングとクイーンがそのまま動き出したかの如き英雄イリヤ・ムーロメッと恋人ワシリーサ。
薄汚れた蛮族トゥガールと比べるとその美しさ・立派さが際立ちます。
ゲゲゲの鬼太郎の子泣き爺とひょうすべを合わした様な外観の「うぐいす強盗(ソロヴェイ・ラズボーイニク)。」
伝承では物凄い声で、本作では驚異的な肺活量で人を吹き飛ばす妖怪です。
文芸座リバイバル当時のチラシでは東宝のキングギドラの元ネタ(?)と書かれていた三つ首竜「ズメイ・ゴルイニチ。」
ミニチュアと実物大プロップで表現され、本物の火炎放射器を仕込まれたと思しき炎を吐く様子は思わず「危ないな!」と叫びそうに成る程です。
蛮族トゥガールの王、カリンがまったく侠気を感じさせない卑怯・強欲・残忍な人物と描かれているのが現在観ると逆に新鮮です。
平地で物見の高台が欲しくなった彼が、兵士・奴隷に命じて人間山を作らせる様子は呆気に取られました。
ロシア伝承・伝奇、国と年代による蛮族描写の変遷、そして手作り特撮、壮大なファンタジー映画に興味がお有りの方、お勧めです。
DVDの特典は多くの字幕、旧作と現在の子供たちを主役とした新撮影部分を取り込んで作ったプトゥシコ監督の業績を讃えた小品、名場面集、サトコの主演俳優を追ったドキュメンタリー等豊富でしたが、メニュー・階層が複雑でちょっと解り難い点がございました。