たとえ作者やパフォーマーにその作品にどんな思い入れがあろうが、いったん商品として流通した以上
その作品をどう聴こうが、カラオケで歌おうが、かまわないだろうし、場末のフォーク酒場で自意識過剰の思い入れたっぷりにカヴァーするのも聴き手の自由だろう でも中にはコアな作品ほどそうする事は神聖なものを汚したみたいに言う人が多かったりするのも事実だ
評者はずっとそんな意見に違和感を抱き続けていたが、このアルバムの表題曲「無残の美」を前にするとやはりこの曲だけは安易にカヴァーしたりカラオケで歌ったりするのは躊躇われるし、この作品に思い入れがある人ほどそんな事はしない(出来ない)だろうと思う
(この曲を聴いた事が無い人の為に補足しておくと、友川氏の実弟の自死を受けての歌である、そう書けばこの歌が暗くて重い物に感じるだろうが...)
実はこの歌はとても美しい旋律と、友川かずきの曲にしては(言葉を選び間違えているかもしれないが)親しみやすいPOPさを持っている
そしてまさに名唱としか言えない激しくも優しい叫び声、ギリギリの所で狂気と正常、あの世とこの世との隙間で踏ん張る事の虚しさ、悲しさ、儚さ、そして自らがまだ生きている事の確認とこれからも生きていく事の覚悟...まさに無残の美だ
そしてこのアルバムにはまだまだ名曲が収録されている〜何が死だ生でもないくせに キチガイになる時から生きるぞ〜と歌われるたこ八郎に捧げられた「彼がいた」
おだやかなメロディとおだやかなヴォーカルで歌われるが、詞は無力な自分自身へのいら立ちと、群れて許されるものへの軽蔑(きっと自身も含むのだろう)に地団駄踏んでる「海みたいな空だ」
友川かずき唯一のラブソングであの遠藤みちろうもよくカバーしている「ワルツ」 絶叫詩人福島康樹氏に捧ぐ「永遠」〜生きたまま花々は落下する〜
アルコールで白濁した意識の中、ふと炎の様に燃え上がる自分自身を歌う「花火」 中原中也の詩にメロディを付けた「一つのメルヘン」「坊や」
友川かずきのすべてのアルバムを聴いたわけではないが、このアルバムが友川かずきの代表作で最高傑作であると断言したい
現在は入手困難みたいだが、初めて友川かずきを聴くならまずはこのアルバムがお薦めです