王道のハイ・ファンタジー冒険活劇です。
主人公のエステルが行方不明になった父親を探すため
義理の弟であるヨシュアとともに
リベール王国周遊の旅に出る、というのが事の発端。
やがて大きな陰謀に巻き込まれていきます。
本作品の進行は物語の本筋にあたるメインイベントと
ギルドに寄せられた住人の依頼を解決するサブイベントに大別されます。
硬軟さまざまな依頼が舞い込むサブイベントが作品の醍醐味と言えます。
この作品の住人は
「東に洞窟があるよ!」的なプレイヤーに情報を与えるだけのパーツではありません。
全員に固有名詞があり、職業や家庭を持ち
それぞれ独立した生活を送っていますし、
住人同士の友人関係、または敵対関係もきちんとあります。
モブキャラ同士の人間関係を綿密に描写した作品は稀有でしょう。
プレイヤーはエステルの視点を通じて、住人の生活に参加していくわけです。
テキスト量の多さ、細かさは凄まじく、ちょっとした事でも
ちゃんとメッセージが変化します。
サブイベントで会ったことのある住人が
メインイベントで登場した場合、
「ああ、あなたはあの時の…その節はどうも」と
ちゃんと挨拶をしてくれます。
地味であっても
こういった描写がきちんと用意されている事が嬉しいです。
背景も素晴らしい
街並や家屋の細かさたるや、家具、什器はもちろん
商店の売り物の一つ一つ、空港の整備用具、レストランの厨房の食料類
事務所の机においてあるエンピツまでしっかり描かれています。
しかも一つとして同じ構造の建物はなく
デジタルのドールハウスと言っても良いくらいの完成度で
「この家の住人はどんな生活をしているんだろう」
と想像するだけでも楽しめます。
優秀な作品なのですが欠点もあります。
作り込みの細かさが裏目に出てアクセス頻度が高く、
UMDドライブに負担を掛ける仕様となっています。
経年劣化で読み込み精度の落ちたPSPをお持ちの方は
ダウンロード版を購入するか、
本体の買い替えもしくは修理をされた方が良いかと思われます。
メーカーに次のバージョンを出す予定があるのならば
メディアインストール機能を追加してほしい所です。
序盤の展開が遅く、戦闘のテンポの遅さ(続編のSCではある程度改善されています)
とあいまってプレイヤーはやきもきさせられるかもしれません。
二つ目の街であるボースから依頼内容が多彩になって
一気に面白くなってきます。
三つ目の舞台であるルーアン地方が個人的に一番好きでした。
海沿いの道は歩いているだけでも楽しかったですし
王立学園での演劇をめぐる一連のイベントは
学生時代の思い出と重ね合わせてみることができ、
懐かしい気持ちにさせてくれました。
キャラの人間模様や、背景、設定の細かさなど
プレイヤーの想像力を刺激するような配慮がそこかしこにあって
色々と考えてみるだけでも楽しくなる素晴らしい作品でした。
これほど豊かな「行間」を含んだ作品を私は知りません。