クロノス(vo,b) マイカス(g) アントン(dr)
英国が生んだメタルの異端児にして、ありとあらゆる激烈音楽の父、Venomによる、2006年発売の11作目。オリジナルメンバーはもはやクロノス1人を残すのみだが、ギターのマイカスことマイク・ヒッキーは1987年ごろにVenomに在籍していた経緯を持ち、クロノスのソロバンドでもギタリストを務めていたなど、なにかとVenomに縁の深い人物。Venom初来日時(1987年)のギタリストも彼だったし、その後も、ある時はCathedralの、ある時はCarcassの一員として度々来日している。
そしてドラムのアントンことアントニー・ラントは、クロノスの実の弟。
80年代初期には、そのあまりに激烈かつ冒涜的なサウンドで物議をかもしたVenomだが、わずか数年後にはスラッシュ/デス/ブラックといったさらに過激なジャンルの台頭により、その下に埋もれるように忘れ去られていった。その後も幾度となくメンバーチェンジを繰り返しながら、かろうじて解散だけはすることなく細々と活動。そんな彼らの起死回生の1作とも呼べるのがこのアルバムである。
まず「Metal Black」という、いかにも原点回帰を狙ったようなタイトル。ジャケの、口元が微妙に非対称な山羊の図柄も名作「Black Metal」のオマージュである。肝心の曲の方も、まさにVenom全開といったところ。さすがに音質的にもなんか小奇麗になっているし、初期のあの向こう見ず極まりない勢いが継承されているとは言い難いが、全く衰えていないクロノスの邪悪なダミ声や、巨石が転がるかのような存在感のベースは健在。マフラーを外した重機が暴走する工事現場のような、技術より勢い重視の姿勢はさすが。
ボーナストラックには、"Welcome to Hell" や "Witching hour" といった初期の名曲のライヴも収録。初期の彼らを知らないという人にも、その邪悪な雰囲気の片鱗が伝われば幸いである。