僕がR&Bに傾倒したきっかけは1994年に発刊された『U.S.Black Disk Guide』というガイド・ブックに出会ったことに尽きるが,同書で取り上げられながら未だに耳にすることの出来ないアルバムが幾つかある。そのうちの1枚が本作だったわけだが,この度ようやく復刻された。
兄弟デュオのようだが,アルバムそのものは結構インストルメンタルを重視していて、ヴォーカル・アルバムというよりはR&Bシンガーを起用したフュージョン・アルバムという感じである。
ジャジーで美しい旋律のピアノにサックスが絡む「Overture」でいきなり心をつかまれる。続く「Money's Too Tight」はシンプリー・レッドがカバーしたことで有名だが,実にファンキーでクールでご機嫌なアップテンポ。奔放なサックスにうねるようなシンセ・ベース,そこにディープなヴォーカルが絡む。終盤にインストルメンタル・バージョンも収録されている。一転してゆったりと穏やかに漂うのは「This Kinds Of Love」。「I'll Make You Happy」では,The Changeなどを想起させるいかにも'80年代的なエレクトリック・ダンス・サウンドと,メロウでソウルフルなアップテンポが交錯し,はじけるようにハッピーな雰囲気から一転して思わずホロッと来てしまう感傷的なトランペット・ソロがあるなど,なかなかユニーク。レイトナイト向けのブルーなミッドテンポ「Just Let Me Be Close To You」,ピュアなバラード「Just Another Love Song」も良い。
これだけ良質なアルバムが何故リリース当時はあまり評価されなかったのか今となっては不思議だが,10年以上待っただけの甲斐がある素晴しい1枚であった。R&Bとフュージョンを巧みに融合したファンキーでクールな感覚はAORファンにも受け入れられるだろう。