少女と「女」の境界、子供と大人の境界、過酷な現実と脳内夢想との端境。この端境(中間地帯)がタイドランド(Tideland)。ジャンキーの両親と暮らしながらローズは、いろんな端境を行き来し、その毎日を脳内補完する・・。それが意識的な逃避なのか、たくましい(生存)本能がそうさせるのか判然とはしない。少女が夢見るグロテスクかつ悪趣味かつ詩的で素敵な成長幻想譚。地面に「潜水する」家、水中のキス、瞬きし、羽ばたく人形(の首)、昼間の蛍・・。斜めの構図が不安感を醸し出す。
おばあちゃんの生家があるアンバーの美しい草原ははたして現実のものなのかという考えさえ浮かんでくる。主な4人の登場人物だけが現にいて、その背景だけがローズの脳内補完ではないのか。それとも両親以外も・・。実はローズたち登場人物はどこかのスラムの空き家にいるのかも知れない。この見た目は豊潤で静謐な草原は、悪夢的なワイエスの絵画のよう。英語圏ポスターには「ポエティック・ホラー」とある。そして必要以上に『不思議の国のアリス』を期待しないでください。
ギリアム監督はローズをどのように描こうとしたのか。実は悲惨な生活を打ち消すために幻想をみなければ崩壊する少女の哀れさを裏に隠しているのか。そうではなく、どのような現実が繰り返されようとも、この年代の子供にはそれを脳内補完する強さが備わっているのか。どうも個人的には今は後者に思えてならない。「子供は強い、自分でのりきっていく防衛本能がある」とギリアムは信じて笑っているのか。一方でそうはいっていられない現実の事件は報道のとおり。ギリアムはそんなネグレクトの現実を踏まえながら、Kids are alrightといわずにはおれない、いいたいのではないか。完全な楽観主義ではなく、監督はそんな脳内補完を信じている。子どもの内からわきあがる知恵を称えている。幻想に理由がある。
さて宣伝の仕方等、観客をミスリードするものであったとしても、観る者はそれを修整しなければならない。「こんな映画気持ち悪い」と斬ってすてれば、あまりにもギリアムにとって不公平かつ不当。漂白され滅菌された毒のないおとぎ話に存在意義が乏しいように、
本作のような映画があってもよい、いやあるべき。拒否反応を起こす方がいるのはわかるが、滅菌映画を嗤うギリアムの嘲笑が聴こえる。
ローズはとんでもない両親のいる(いた)Badland, Wastelandから、豊饒な(だが閑散とした)Tide landへ。通過儀礼としての死、性、邪悪とイノセンス。それがデルでありディケンズであり、父だった。登場人物らはローズを成長させ、Plenty Landへ、あるいは大海原へ結果として至る(Tidelandには干潟という意味も)。ローズのポテンシャルが彼女をメタモルフォーゼさせ、生のパワーを感じさせる1篇。子供をなめてはいけない。ハッピーエンドとは断言できないが、脆さ危うさをはらみながら、すべての子どもにエールを送るラスト。今はこんな風に思う。また観れば(観ると思う)違う感想になるかもしれない。
列車や首だけ人形のキャラ付けや父親ノアの扱い・・。そんな曖昧さを抱え込みながら存外まともな映画。すべてに意味がないようにみえてすべてに意味を持たせている映画かも知れない。過去の作品のいろいろなイメージもちらほら見られ、ストリングスの音楽も撮影もよい。ジョデル・フェルランドの素晴らしさ、鮮烈さ、映画へのはまり具合はみなさんお書きの通り。この子なくしてこの映画はこれだけ説得力をもったのか疑問といえるほど。現在の画像を見た。すごく美しくなっていた。現在、新作も多く控えているようで安心。そしてジェフ・ブリッジス、ご苦労さまです。お仕事選んでいいんですよ。
先行レビュアーさまのいうようにアスペクト比に難がある。英米劇場ではスコープサイズの2.35:1(DVD化に当たってテリー・ギリアムが2.25:1に変更したそう)。しかし本日本商品は1.78に両端カットしたもの。Amazon.uk では確かにRevolver社のものが2.35:1表記しかし、amazon comのThinkFilmのものは1.77表記だった。(英BD、2枚組DVD。米では2枚組DVD。ドイツ盤BD(1.77:1))。邦盤BD発売時にはぜひスコープでの発売を願います。
TIDELAND, 2005, UK=Canada, Theatrical aspect ratio, 2.35 : 1 , Dolby Digital, 120 min , Color
画質はDVDとしては普通。傷、パラ、ノイズ、ちらつき、がたつき、にじみはなし。色合いは鮮やかでよく出ていて問題はない。
映像仕様は16:9 LB , 画面アスペクト比は1.77: 1(天地に黒地なし。米マスター?))
片面2層
音声:英語Dolby Digital 5.1ch サラウンド
字幕:日本語、on・off可能、チャプターメニューあり
映像特典:日本予告編(4:3の中におそらくヴィスタサイズ、HD, 日本語字幕あり)
音声特典:なし,
120min.
発売:東北新社, 販売:ハピネット、2008年
関連キーワード:(未見の方はスルーしてください)
少女、孤児、平原、一軒家、ワイエス、魔女、列車、線路、潜水、蛍、バービー人形、兎、ミイラ、儀式、、肋骨、コープス、注射器、ネクロフィリア、オーバードーブ、幻想
連想作:不思議の国のアリス、サイコ、天国の日々、オズの魔法使い、ミツバチのささやき